1.非器質性精神障害の認定
前回は、交通事故によって非器質性精神障害を負うことがあり、それによって生じた損害賠償を請求するにあたって考慮すべきことがいくつか存在することをご紹介しました。
(前回の記事はこちら:交通事故と非器質性精神障害)
今回は、そもそもどのような場合に非器質性精神障害が存在するといえるのか、どういった事情が考慮されるのかについて見ていきたいと思います。
以下では、厚生労働省が平成15年8月8日に示した基準をご紹介します。
2.精神症状
非器質性精神障害の後遺障害があるというためには、以下に述べる精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、「3」述べる能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることが必要となります。
(1) 抑うつ状態
持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂うつである、希望がない、絶望的である等)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態
(2) 不安の状態
全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態
(3) 意欲低下の状態
すべてのことに対し関心がわかず、自発性が乏しくなる。自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態。
(4) 慢性化した幻覚・妄想性の状態
自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が異常に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態。
(5) 記憶又は知的能力の障害
非器質性の記憶障害としては、解離性(心因性)健忘がある。自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態。
非器質性の知的能力の障害としては、解離性(心因性)障害の場合がある。日常身辺生活は普通にしているのに改めて質問すると、自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をするような状態(ガンザー症候群、仮性痴呆)
(6) その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
上記(1)から(5)に分類できない症状、多動(落ち着きのなさ)、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴など。
3.能力に関する判断項目
(1) 身辺日常生活
入浴をすることや更衣をすることなど清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかについて判定するもの。
食事・入浴・更衣以外の動作については、特筆すべき事項がある場合には加味して判定を行う。
(2) 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否かについて判定するもの。
(3) 通勤・勤務時間の遵守
規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうかについて判定する。
(4) 普通に作業を持続すること
就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかについて判定する。
(5) 他人との意思伝達
職場において上司・同僚等に対して発言を自主的にできるか等他人とのコミュニケーションが適切にできるかを判定するもの。
(6) 対人関係・協調性
職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定する。
(7) 身辺の安全保持、危機の回避
職場における危険等から適切に身を守れるかどうかを判定するもの。
(8) 困難・失敗への対応
職場において新たな業務上のストレスを受けたとき、ひどく緊張したり、混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかということを判断するもの。
4.障害の程度に応じた認定
以上のような項目に加えて、就労意欲の低下があるかどうかも考慮した上で後遺障害が残っていると言える場合には、労働や日常生活への障害の程度に応じて、9級、12級、14級といった等級の認定がなされることになります。
5.次回について
次回は、後遺障害が存在するとなった場合で、相手方に損害賠償を請求する段階で問題となることについて述べたいと思います。
弁護士 福留 謙悟