1 非器質性精神障害

 交通事故の被害者が、事故による恐怖や、後遺障害による苦痛、将来への不安等によるストレスから精神障害に陥ることがありますが、脳に対する器質的損傷を伴わずに精神的障害が生じるものは、「非器質性精神障害」と呼ばれます。

2 問題点

(1) このような障害が他の骨折等の傷害と違って難しい点としては、障害の存在や原因を客観的に確認することが難しく、患者の訴えによって判断しなければならないということがあります。
したがって、損害賠償を求めるにあたって、どのような事情が必要なのかという点が問題となります。

(2) 次に、精神障害があることが認められたとしても、精神障害は事故以外の様々なストレスから生じる可能性もあるため、それが事故によって生じたものといえるのか、判断が難しいということがいえます。
そのため、事故と精神障害との因果関係が問題となり、因果関係が認められる場合であっても、その他の事案と同様に100パーセントの因果関係を認めてよいのかという点が問題となります。

(3) また、精神障害の原因として交通事故の存在が認められるような場合であっても、他のストレス原因や、被害者の性格も、損害の発生や損害の拡大に影響しているのではないかということが考えられます。
この場合、損害額のすべてを加害者に負担させるのが公平の観点から妥当かという問題が生じることになります。
また、損害額のすべてを加害者に負担させるべきではないという判断になった場合、どのようにしてバランスをとるのかが問題となってきます。

3 次回について

 次回以降では、これらの問題点について、裁判所がどのように判断をしているのかということを見ていきながら、精神障害について損害賠償請求をする際に留意すべき点を考えていきたいと思います。

弁護士 福留 謙悟