本日は、高次脳機能障害の中でも、特に認定申請の際問題があると言われる小児・高齢者について述べていこうと思います。
小児や高齢者の方々が高次脳機能障害として認定申請する際一番頭を悩ませる問題は、「症状固定時期の考え方」です。
症状固定とは、治療を続けても大幅な改善が見込めず、長いスパンでみると回復・増悪がなくなった段階をいいます。
では、小児や高齢者の高次脳機能障害にとって、なぜ症状固定時期の考え方に問題が生じるのでしょうか。
まず小児については、幼稚園、学校での生活への適応困難の程度を的確に判断するには、適切な時期まで経過観察が必要になる場合が多いです。なぜなら、小児が成長したときにどの程度の適応困難を示すかについては、脳損傷の重症度だけでなく、脳の成長と精神機能の発達とによる影響が大きいからです。そこで、乳児は幼稚園、幼児は就学時まで等級評価を行わないことが妥当と考えられているようです。
しかし一方で、小児事例では、事故に伴って起きたさまざまな事柄に早期の決着をつけたいと希望する親の意向が反映され、受傷から1年以内であっても後遺障害の認定申請がなされることが多いようです。
このように、小児については、医学的な判断と親の意向が真っ向から相反する状態となっており、症状固定時期の判断について問題が生じています。
次に高齢者については、当該脳外傷以外の疾病が原因となっている可能性もあること及び加齢による認知障害の進行が原因となっている可能性もあることから症状固定時期については慎重に検討することが必要となると考えられています。
では、実際にどのように取り扱われているのでしょうか。
小児の場合、迅速な補償を求める親の意向を尊重し年齢によって一律に症状固定時期を延伸することは適切ではないので、一定時期での症状固定日に基づき等級認定をするが、仮に入園・入学後に症状増悪が判明したとして、追加請求がなされた場合には、これを受け付けて慎重に検討するべきであるとされています。
この点について、被害者・加害者間で損害賠償責任に関する示談が成立したケースにおいて、示談の内容として被害者が損害賠償請求権を放棄している場合には、自賠責保険に対する請求もできないのが原則です。しかし、示談において、障害が悪化した場合や示談後に上位の障害等級が認定された場合等における賠償の権利を留保する趣旨の内容が定められていれば、加害者への損害賠償請求及び自賠責保険への請求も可能と判断されます。
そのため、障害が悪化した場合の損害賠償の権利をいたずらに失うことがないように、示談条項に関して被害者は注意しなければなりません。
高齢者の場合、症状固定後一定期間が経過し、状態が安定した時点の障害程度をもって症状固定とし、障害等級の認定を行うものとし、その後、時間が経過する過程で症状が悪化した場合については、交通事故による受傷が通常の加齢による変化を超えて悪化の原因になっていることが明白でない限り、上位等級への認定変更の対象とはしないという取扱いをすべきです。
「脳外傷の後遺障害が重度化した」という異議申立て事案に対しては、初回審査後、認知・行動面の症状を継続的に診療している医師の診断書が必要で、その内容は症状の増悪について当該脳外傷が症状増悪の原因であり、脳外傷以外の疾患や加齢に伴う廃用などは主因ではないことを証明できるような資料の提出が必要です。
以上のように、小児や高齢者については通常の成人とは異なる難しさが存在することから、受傷後すぐにこのような問題について専門的に取り扱っている弁護士に委任していただくようお願いいたします。