定期金賠償①からのつづき(記事はこちら:定期金賠償①)
3 東京地判平成18年3月2日・判例時報1960号53頁
⑴ 本判決の要旨
本判決は、交通事故によって自賠法施行令2条別表の後遺障害別等級表に基づく併合3級の認定を受ける後遺障害を負った被害者が、後遺症逸失利益について、定期金賠償を請求したところ、裁判所は、一時金賠償による支払を命じたものです。
その理由として、本判決は、本件においては、後遺障害逸失利益について、定期金賠償方式によるべき合理性及び必要性があるものとは認められないことを指摘しました。
すなわち、被害者が事後的に交通事故とは別の原因で死亡した場合でも損害は存続すること、本件の場合原告の後遺障害の内容、程度に照らして、将来の介護費用と一体のものとして定期金賠償を認め得る場合ではないこと、原告が定期金による支払を求めているのが症状固定後15年間のみであり、その後については一時金による支払を求めているが、その合理的理由が明らかでないこと、被告らが定期金による支払を求めていないことを総合考慮すると、定期金による支払を認めることは相当とはいえないとの判断を示したのです。
⑵ 本判決の問題点
従来、被害者が、「一時金による賠償の支払を求める旨の申立をしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできない」[1]とする判例がありました。
この判例のケースとは逆に、本判決は、被害者が定期金賠償を求めたにもかかわらず、裁判所において一時金賠償を命じる判決をできるか否かが問題となった例でした。
そして、本判決に関する法的な問題点としては、処分権主義との関係を指摘できると考えます。
⑶ 処分権主義とは
処分権主義とは、「訴訟の対象たる私法上の権利関係についての私的自治に対応する、民事訴訟の基本原則の一つ」[2]であり、訴訟の開始、訴訟物の特定、判決によらない訴訟の終了をその内容としています(民訴法246条)。
本判決の問題は、支払方法が処分権主義の内容となるか否か、すなわち、原告の請求と異なった支払方法を命じる判決が当事者の特定した訴訟物以外について判断した違法があるか否かにあると考えます。
⑷ 検討
「一時金賠償か定期金賠償かにより請求の趣旨(判決主文)は形式的に異なるものの、根拠条文、原因事実及び被侵害利益は同一であり、また、原告の意思が生存中の後遺障害逸失利益や介護費用の全額の給付を請求するものである点も同一であるから、請求権及び訴訟物は同一である」[3]と考えられます。
また、「賠償方法の選択は、原告のみならず被告の利害にも重大な影響を及ぼし、損害額の算定方法や紛争解決の一回性・終局性にも関わるものであるから、これを処分権主義の内容であるとして全面的に原告の意思に委ねるのは相当でない」[4]ともいえます。
以上より、支払方法は、処分権主義の内容には含まれないものと解され、原告の請求と異なる支払方法による支払いを命じた判決に違法はないものと考えます。
もっとも、損害賠償制度の被害者救済の目的に照らして、被害者が、一時金賠償の不当なデメリットを回避できるように、実務上の工夫がなされることは必要と考えます。
喫緊の課題としては、実勢と乖離した5%の中間利息控除率について、足許の金利情勢[5]を考慮したものに改めることが挙げられるでしょう。
[1] 最判昭和62年2月6日・裁判集民事150号79頁。
[2] 司法協会『民事訴訟法講義案(再訂補訂版)』11頁。
[3] 中園12頁。
[4] 中園13頁。
[5] 足許の普通預金の平均年利率は0.02%(日本銀行金融機構局「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等について」2012年2月22日付午前8時50分公表)。
弁護士 伊藤蔵人