1 はじめに
こんにちは、弁護士の伊藤です。
今回は、東京地判平成18年3月2日・判例時報1960号53頁(以下「本判決」といいます。)を踏まえて、定期金賠償について検討したいと思います。
2 定期金賠償
⑴ 定期金賠償とは
わが国の不法行為に基づく損害賠償は、加害者による権利侵害によって、被害者に生じた損害を填補することを目的とします。
しかし、交通事故をはじめとする人身損害については、加害行為自体は過去の一回的事実であっても、実際の損害は長期間にわたって顕現化する例がみられます。
このような場合の損害賠償の方式として、実務上、将来顕現化すべき損害を口頭弁論終結時において評価し、一時金としてその賠償を命じる方式(以下「一時金賠償」といいます。)と、顕現化する時期に応じて、定期金としてその賠償を命じる方式(以下「定期金賠償」といいます。)が用いられています。[1]
⑵ 定期金賠償のメリット
定期金賠償の主なメリットとしては、①損害額算定の適正化、②事情変更への対応、③中間利息控除の回避の3点を指摘できると考えます。[2]
① 損害額算定の適正化
まず、定期金賠償のメリットとしては、「被害者が裁判所の認定よりも長生きしたために家族が介護費用に窮したり、あるいは、被害者が早期に死亡したために家族が利得したりすることがない」[3]点で、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨に適うことが挙げられます。
② 事情変更への対応
次に、「被害者の後遺障害の内容・程度、介護状況、職業付添人の介護報酬などの変動があった場合、民訴法117条で対応が可能であり、被害者の生活保障の観点から、後遺障害の程度にふさわしい介護費用が絶えず支払われる」[4]点が、被害者救済という損害賠償制度の目的に合致するといえます。
③ 中間利息控除
最後に、「中間利息控除率の問題がない」[5]ことが挙げられます。
すなわち、「人身損害賠償の実務では、将来具体化する損害については年5パーセントのライプニッツ方式により中間利息を控除し現在価値に換算して、一時金賠償」[6]の金額を算定しています。
「これに対し、昨今の低金利の情勢を踏まえ、実勢利率と乖離した年5パーセントのライプニッツ方式により中間利息を控除することに疑問」[7]が呈されているところです。
⑶ 定期金賠償のデメリット
定期金賠償の主なデメリットとしては、「紛争解決の一回性・終局性の欠如」[8]にあると考えられます。
口頭弁論終結後の事情によって、裁判内容が見直される可能性が内包されているという定期金賠償のメリットは、反面、法的な不安定さを伴っているといえます。
定期金賠償②へつづく。
[1] 伊藤眞『民事訴訟法[第3判4訂版]』470頁。
[2] 中園浩一郎「定期金賠償」(判例タイムズNo.1260―5頁。以下「中園」と略す。)、大島眞一「重症後遺症事案における将来の介護費用 ― 一時金賠償から定期金賠償へ ―」(判例タイムズNo.1169―73頁。以下「大島」と略す。)など。
[3] 大島79頁。
[4] 大島79頁。
[5] 大島79頁。
[6] 中園7頁。
[7] 中園7頁。
[8] 中園8頁。
弁護士 伊藤蔵人