Q.
交通量の多い県道(片側1車線)をバイクで走行していて転倒したのですが、私の単独事故と言われることに納得が出来ません。
なぜなら、転倒した原因は舗装路面が陥没していて、道路左端から中央部分にかけて幅2.5m、高低差7cm位の段差が出来ていたためです。私は道路の左寄りを走行し、制限速度も守っていました。せめて“段差注意”の看板等で注意喚起していてくれれば、事前に中央に寄る等の対処もできたのに、突然の段差にタイヤをとられて転倒して、その責任が自己責任と言われるのは釈然としません。何とかならないでしょうか。
A.
道路の状態が通常有すべき安全性を欠いたものであれば、その管理者である国や地方自治体に対し、賠償請求が可能な場合があります。もっとも、これが認められるためのハードルは低くはなく、段差の状況はもちろんのこと、当該道路の位置や、環境、交通状況等の具体的事情に大きく左右されるところです。

1.国に対して訴える場合…国家賠償法2条1項

 国家賠償法2条1項は、「道路、河川その他公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」と規定しています。
 道路の管理者は、原則として、“国道”は国、“都道府県道”は当該都道府県、“市町村道”は当該市町村です(道路法13条、15条、16条【17条に特例規定あり】)。本質問は「県道での事故」ということですので、当該県を相手に国家賠償請求訴訟を提起することが考えられます。
 この請求が認められるためには、賠償を請求する損害が道路の瑕疵と因果関係を有するものであることはもちろん、①当該道路の状況等が、道路管理の「瑕疵」と評価されるか、②不可抗力でないか、との点や、③過失相殺も問題となりうるところです。

2.どのような状態が「道路上の瑕疵」といえるのか

 ここにいう道路管理の「瑕疵」とは、道路がその機能に鑑みて、通常有すべき安全性を欠いた状態にあることを意味します。段差や穴が道路に存在していたとして、その段差等の長さや深さ、穴が存在している位置等の客観的状況は重要な考慮要素とされます。
 もっとも、段差等の長さや深さ、幅の大小だけでは、当該道路が通常有すべき安全性を欠いていたかどうかの判断はできません。
 それは、多くの裁判例が考慮要素としているように、通常有すべき安全性の程度の判断が、当該道路の位置や環境、交通状況、現場付近の舗装の有無等にも左右されるためです。
 また、瑕疵の判断は、道路の状況だけではなく、保安措置を講じていたか否かという点も問題となります。
 道路法42条1項は、「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない」と規定しています。国や地方公共団体の予算や人的資源には限りがあり、さらに復旧工事に要する時間もありますので、段差や穴が生じたそばから完全な復旧工事を完了させるというのは困難だとしても、仮の補修措置や防護柵、注意書き、「段差注意」等の標識設置、場合によっては通行止めにするなどして、保安措置や注意喚起を講じていなかったことが瑕疵と評価される場合もあります。質問の事案でも、この点は強く主張しておきたいところです。

 例えば、交通量は極めて少ないけれども、落石がしばしば生じている峠道があったとして、多額の費用を用いて全面にコンクリート擁壁を設置するというのは現実的でないとしても、落石防止のネットや、落石注意の注意書きの設置することは求められうるという場合も想定されます。
 また、長雨により地盤が緩み、落石・土砂崩れの起きやすい状況にある場合、予め通行止めにしておかなければ、管理の瑕疵と認定される場合もありうるでしょう。
 これら管理をどのような方法で、どの程度行っておくことが、通常有すべき安全性として求められるかは、当該道路の交通量や位置等、当該事故が生じる危険性や、これが生じた場合に想定される被害の大きさ等、様々な考慮要素が入れられるところです。

3.不可抗力だった場合

 国家賠償法2条1項の規定は、無過失責任を規定するものと解されていますが、不可抗力の場合には免責されるものとされています。例を挙げると、地盤沈下による陥没が深夜に発生し、それから数時間後、行政が対応する間もないまま事故が発生したというような場合が想定されます。

4.被害者側にも過失を問われる

 道路管理の瑕疵に対する損害賠償請求の事案では、「瑕疵」が認められたとしても、その多くの事案が被害者側にも落ち度があったとして、過失相殺をしています。段差や穴が生じていたとはいえ、他の車は事故を起こさず通行していたという場合のように、被害者が注意を払っていれば事故を回避できたと言えるような事案では、その傾向は高まるところです。

5.道路状況により事故を起こした場合は、すぐに相談を

 道路の穴や段差が補修されてしまったり、注意書きの標識等の保安措置が追加で講じられてしまったりと、道路の状況が変化してしまい、必要な資料が集まらなくなることも考えられますので、質問者の場合も、請求をするのであれば早期に弁護士に相談しておくことが肝要でしょう。
 また、国や地方公共団体が示談交渉に応じない場合、訴訟を提起せざるを得ず、その場合、仮に勝訴したとしても、賠償を獲得するまでには長期を要することが強く予想されます。
早期に補償を得ることを優先する場合で、自身の任意保険に車両保険や人身傷害特約を付帯させている場合、これら保険で修理費や治療費を賄うという方法も考えられます。