1 はじめに

 皆様こんにちは。福岡法律事務所の有松です。
 交通事故の場面では、事故車両の修理費や、怪我の治療費のように典型的なものからそうでないものまで、様々な損害が想定されます。その判断基準は、事故と相当因果関係が認められるかという点が主でしょう。

 今回は、車内に愛犬等のペットが同乗していた場合等における、ペットの治療費や慰謝料(動物は、損害賠償請求の主体になり得ませんので、ここにいう慰謝料は飼い主の慰謝料です。)について、いくつか裁判例を紹介したいと思います。

2 ペットの治療費

 人間が怪我をした場合の治療費は、当該事故と相当因果関係の範囲内であれば、原則としてその実費相当額の全額が損害賠償として填補されます。
 これに対し、動物の場合は、判断が分かれるところです。

 例えば、ゴールデンレトリバーの怪我につき、治療費6万5300円をそのまま認めた裁判例もありますが(大阪地裁平成15.7.30)、これは、そもそも治療費がそれほど高額でなかったことも影響しているでしょう。
 他方で、治療費全額ではなく、当該ペットの客観的価値(ラブラドールレトリバー8歳、購入価格65000円)に鑑み、社会通念上相当と認められる限度として、飼い主の主張する治療費145万2310円のうち、13万6500円(うち2万5千円は車いす制作料)のみを認定した裁判例があります(名古屋高裁平成20.9.30判決)。
 車両損害の場合、客観的価値(時価+買替諸費用)を超える修理費は、いわゆる経済的全損として、当該客観的価値相当額までしか認められません。
 ペットの特質に照らすと、車両の場合と完全にパラレルに考えることはいささか抵抗を覚える方も多数いらっしゃることと存じます。

 私見ですが、上記名古屋高裁の裁判例が購入価格を超える金額を認めたのは、ペットの「客観的価値の算定」に幅を持たせることで「人」、「ペット」、「無機物」の違いに対しバランスを図ったものと解釈できます。

3 ペットの怪我・死亡に対する慰謝料

(1)ペットは通常、愛情をもって飼育されることから、「家族の一員」との表現も耳にするところです。しかしながら、こと損害賠償という場面においては、人間と動物を同一視されません。法的には、動物は「物」であり、ペットの治療費等の損害は費目としては「物損」にあたるからです。
 いかに愛着のある車等であっても、これが失われたことに対する慰謝料は「物損に解消」否定される傾向にあります。

 しかし、ペットについてはこれを認める裁判例が複数ございます。これは、ペットが飼い主にとって「かけがえのない家族」であるという意見が、いわば社会通念となっているからでしょう。

(2)もっとも、その金額は人の場合と比較すると決して高額と言えるものではありません。
 先に挙げたラブラドールレトリバーの裁判例(名古屋高裁平成20.9.30判決)は、同犬につき、腰椎骨折により後肢の麻痺や排泄障害の後遺症が残ったという事案でした。
 その慰謝料算定にあたり同裁判例は、「(飼い主は同犬に対し)わが子のように思って愛情を注いで飼育していたこと」や、後肢麻痺等の後遺症を負ったことで「(同犬が)死亡した場合に近い精神的苦痛を受けている」とした上で、飼い主の慰謝料として計40万円(飼い主2人の共有物として、一人当たり20万円)と認定しています。

(3)なお、交通事故の事案ではありませんが、血統書付きでないペットにも、死亡させられた点につき飼い主への慰謝料が認められた裁判例もあります(大阪地裁平成21.2.12判決)。
 この裁判例では、知人から無償で譲り受け、18年間にわたって飼育していた雑種の猫が他者の飼い犬にかみ殺されたという事案に対し、慰謝料20万円が認定されています。
 着目したい点は、猫にとっては高齢である18歳という年齢について、「飼い主の精神的苦痛は、むしろその飼育期間に比例して増大するものと考えるべき」と判示している点でしょう。

 これら裁判例の認定や慰謝料額については、「人」と「動物(ペット)」の違いと見るか、「物」と「動物(ペット)」の違いと見るかで、その評価が異なるでしょう。