3.子供の自転車事故で母親が約9500万円の損害賠償責任を負った事例

 具体的な裁判例では両親の損害賠償責任についてどのような判断がなされているのでしょうか。11歳の子供が自転車で起こした事故により、母親に対する約9500万円の損害賠償請求が認められた裁判例を紹介いたします(神戸地判平成25年7月4日自保ジャーナル1902号1頁)。

(1)事案の概要

 62歳の女性が平成20年9月22日午後6時50分頃に歩道と車道の区別がない道路を歩行していたところ、スイミングスクールから帰宅中の11歳男子が乗った自転車に正面衝突されて、頭蓋骨骨折等の傷害を負った事案です。

(2)裁判例の要旨

 母親は子供に対して日常的に自転車の走行方法について指導するなど監督義務を果たしていた旨主張しました。
 しかし、裁判所は、母親が「ヘルメットの着用も指導していたと言いながら、本件事故当時は」子供がヘルメットの着用を「忘れてきていることなどに照らすと」、母親が子供に対して「自転車の運転に関する十分な指導や注意をしていたとはいえず、監督義務を果たしていなかったことは明らかである」として、母親には約9500万円の賠償金を支払う責任があることを認めました。

(3)解説

 母親側の主張によると、母親は子供の体の大きさに合った自転車を使用させていた上、子供に対して日常的に走行方法について指導しておりました。具体的には、「スピードを出さないように、ハンドルをしっかり持って前を向き注意して運転するように、歩行者や車両に注意するように、夕方以降はライトを点けるように、危険な運転はしないように、周りをよく見るように」等と言い聞かせていました。
 しかし、小学生が起こした事故の場合には(監督者責任)、十分に監督していたという親の主張は極めて認められにくいため、本件でも母親の主張は一蹴されて損害賠償責任が認められました。