交通事故訴訟において被害者の精神障害がPTSDに該当するか争われた場合、最近ではPTSDを否定する裁判例が多くなっています。

 全国の民事交通事故裁判をリードする東京地裁民事第27部(民事交通部)がPSTDの判断について、①自分又は他人が死ぬ又は重傷を負うような外傷的な出来事を体験したこと、②外傷的な出来事が継続的に再体験されていること、③外傷と関連した刺激を持続的に回避すること、④持続的な覚醒亢進症状があることという要件を厳格に適用していく必要があるとして(東京地裁平成14年7月17日判決判時1792号92頁)、PTSDを否定して以降は、PTSDを否定する裁判例が圧倒的です。

 上記の裁判例は、PTSDを否定し、外傷性神経症としてとらえ5%・10年官間の労働能力喪失率を認めましたが、PTSDに該当しなければ、非器質性神経後遺障害を一律に14級9号、喪失率5%をして評価しなければならないものとは考えられていません。

 例えば、河邉義典裁判官(発言当時、東京地裁民事交通部部長)が「PTSDに該当しない外傷性神経症についても、事案に応じて適切な労働能力喪失率と労働能力喪失期間が認められるべきであり、14級10号にとどまらない事案も少なくないのではないか」と述べています(赤い本2003年版273頁)。

 したがって、被害者の精神障害がPTSDに該当するかどうかは、被害者に後遺障害が存在するかどうかという判断においては重要な意味をもたなくなっています。

 ただし、訴訟上、PTSDに該当すると認定される場合には素因減額を否定すべきと考えられるので、PTSDに該当するかどうかは素因減額の可否において問題として残ると思われます(北河隆之『交通事故損害賠償法』162頁参照)。