こんにちは。長谷川です。
前回に引き続き、今日も、準拠法の話をしていきます。
(前回の記事はこちら:外国人との離婚~その3~)
前回、離婚についての準拠法のお話をしました。ただ、離婚にまつわる問題は、他にも、親権者指定や、面接交渉、養育費、財産分与等、色々あります。
そこで今日は、養育費等(『等』というのは、別居後離婚の争いをしている間の婚姻費用の問題も含む趣旨です)についての準拠法のお話をしますね。養育費や婚姻費用の支払い義務を、「扶養義務」といいます。
この扶養義務の準拠法は、原則として扶養権利者(要するに養育費や婚姻費用を貰うことができる者です)の常居所地法(=住んでいる国の法律)です(扶養義務の準拠法に関する法律第2条1項)。
従って、養育費の場合だと、お子さんの居住地が日本であれば日本法に従って養育費が決定されますが、お子さんが外国に住んでいる場合は外国法に従って養育費が決定されます。
つまり、養育費や婚姻費用の調停の申立時にお子さんがどこに住んでいるかによって、適用される法律が変わってくるわけです。このことが具体的にはどういう効果をもたらすのかというと、結構、大きな違いを生じる場合もあるのです。。。
例を挙げますね。
日本人夫とロシア人妻の夫婦が離婚しました。5才のお子さんが1人いて、親権者はロシア人妻がなりました。ロシア人妻はお子さんを連れてロシアへ帰国しました(日本人夫は日本で生活を継続)。ロシア人妻は無職です。
その後、養育費を支払って欲しいと考えたロシア人妻は、日本人で弁護士の代理人を依頼して、日本の家庭裁判所で、日本人夫相手に養育費の調停を申し立てました。
この場合、上記ロシア法に従うと、お子さんの常居所地はロシアなので、準拠法はロシア法になります。さてロシア法によると、養育費については、子どもが1人の場合には、扶養義務者の年収の4分の1と定められています(ロシア連邦新家族法典第81条1項)。
そうすると、日本人夫の年収が仮に600万円だとすると、養育費は年間約150万円(月額12万5000円)という事になります。
では、仮にこのケースにおいて、ロシア人妻が引き続き子どもと一緒に日本で暮らしていた場合、どうなるのでしょうか。
日本では養育費等の算定に際しては、(元)夫婦双方の年収を基準に、算定表というものを適用して具体的金額を決定します。
上記のケースで算定表を適用すると、養育費の金額は月額6万円~8万円ということになります。
12万5000円と6万円~8万円…。
どうですか?準拠法が変わるだけで、養育費の金額が倍近く変わってくるのです。
これって、申し立てる側にとっても、申し立てられる側にとっても、かなり大きな違いになりますよね。
しかもロシア法の場合、子どもが2人の場合は、扶養義務者の年収の3分の1、子どもが3人以上になると、なんと年収の2分の1が養育費として取り立てられうるのです!!
年収の2分の1って、すごい金額ですよね(上記の例だと、実に300万円=月額25万円が養育費になるわけです!これって、日本の算定表をロシア人妻に有利に適用して獲得できる養育費14万円よりも遙かに多額です)。扶養義務者の生活が成り立つのか、心配になってしまいます。。。
以上の内容からもおわかりのように、準拠法がどこの国の法律になるのかということは、かなり重要なポイントの1つであり、それ故に、離婚手続きそのものの戦略にも大きく関わってきます。
従って、国際結婚をされたご夫婦が離婚しようとお考えの場合には、関係する問題の準拠法については、必ず、チェックして下さいね。
弁護士 長谷川桃