1 DV(ドメスティック・バイオレンス)とは

 ドメスティック・バイオレンスは、一般的に、配偶者や恋人関係にある者から振るわれる暴力という意味で使用されています。

 DV対策としては、都道府県などの設置する配偶者暴力相談支援センターへの相談、同相談所の自立支援、婦人相談所の一時保護などがあります。なかでも、より実行性のある対策として、以下詳述するDV保護命令があります(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第10条、通称「DV保護法」といいます。)。

2 DV保護命令の内容

 裁判所は、次の⑴~⑸の保護命令を発することができます。

⑴ 被害者への接近禁止命令(法10条1項1号)

 6ヶ月間、被害者の身近につきまとい、又はその通常所在する場所付近を徘徊することを禁止する命令です。

⑵ 退去命令(法10条1項2号)

 2ヶ月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及びその住居の付近を徘徊することを禁止する命令です。

⑶ 電話等禁止命令(法10条2項)

 上記⑴接近禁止命令の発令とともに、6ヶ月間、被害者との面会要求、被害者の行動の監視、連続する電話や電子メールの送信、その他嫌がらせ等を禁止する命令です。

⑷ 被害者の未成年の子への接近禁止命令(法10条3項)

 上記⑴接近禁止命令の発令とともに、6ヶ月間、被害者と同居する子の住居、就学する学校等において、その子の身近につきまとい、又はその通常所在する場所の付近を徘徊することを禁止する命令です。

⑸ 被害者の親族等への接近禁止命令(法10条4項)

 上記⑴接近禁止命令の発令とともに、6ヶ月間、被害者の親族の住居等において、その親族の身近につきまとい、又はその通常所在する場所の付近を徘徊することを禁止する命令です。

3 保護命令が発令される場合とは

 次の⑴⑵いずれも認められることを要します。

⑴ 配偶者からの暴力

 「配偶者」には、事実婚、生活の本拠を共にする交際相手を含みます。また、男性・女性の別を問いません。
 「暴力」には、身体に対する暴力又はこれに準ずる生命又は身体に対し害を加える旨を告知して脅迫されたことを言います(性的暴力・精神的暴力は含まれません。)。

⑵ 配偶者から今後暴力を受けるおそれ

 従前の暴力などの諸事情から、配偶者が被害者に対して暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高い場合を言います。

4 保護命令に違反した場合の効力

 保護命令に違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます(法29条1項)。

5 現状

 DV保護命令は、被害者を暴力から保護するために実効性があります。
 しかし、DV保護命令の申立ては、配偶者からの暴力から逃れるという目的ではなく、申立て後の離婚交渉を有利に進めるために濫用的に申し立てられる場合があります。ただ、濫用的な申立ての場合、申立人(被害者と主張する側)は、矛盾した証拠・供述を提出していたり、都合の良い証拠だけ裁判所に提出して都合の悪い証拠を隠していたりします。そこで、相手方(加害者とされた側)は、矛盾点を指摘し、別の客観的証拠を提出することにより、申立人の主張が信用できないこと、事実に反すること等主張し、保護命令の発令を防ぐことができます。聞いたところによると、裁判官としても、このような趣旨で申立てられると感じているらしく、「悩ましい。」と言っていたのを聞いたことがあります。

 このように、DV保護命令は、技術的な面も点もありますのでDV保護命令の申立てをしたい方も、不当な申立てを受けた方も、弁護士に相談してください。

弁護士 江森 瑠美