皆様、こんにちは。
1 イントロ
今回はテクニカルな話題です。
例えば、離婚調停が不成立に終わったので離婚訴訟を起こす予定だけれども、不貞行為が争いになっているので、この際不貞相手への損害賠償(慰謝料)請求も訴訟で進めたい、というケースにおける訴訟の取り扱い方です。
2 制度の概要
(1) 離婚訴訟の第1審を担当するのは家庭裁判所、損害賠償請求事件をはじめとする民事事件の第1審を担当するのは簡易裁判所もしくは地方裁判所です(このような役割分担を職分管轄といいます。)。イントロでご紹介したケースでは、離婚訴訟は家庭裁判所へ、慰謝料請求の訴訟は地方裁判所へ提起することになりそうです。
(2) もっとも、離婚訴訟などいわゆる人事訴訟とよばれる裁判の取扱い方を定めた人事訴訟法には、「人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」は「一の訴えですることができる」と規定されております(人事訴訟法(以下、「法」と略します。)17条1項前段)。
担当する裁判所ですが、「当該人事訴訟に係る請求について管轄権を有する家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。」(法17条1項後段)とされています。したがって、イントロでご紹介したケースでは、まとめで家庭裁判所に訴訟提起することが可能なのです。
なぜこのように定めたのかといいますと、1つの裁判所で担当してもらう方が立証する際の便宜や訴訟経済に資する、つまり、ざっくばらんに言ってしまうと1回の審理で済ませる方が効率的である、ということでしょう。
そのため、離婚訴訟を先に提起して、後から損害賠償請求訴訟を提起する場合でも、家庭裁判所に出してよいことになっています(法17条2項)。
3 移送
それでは、先に地方裁判所へ不貞相手に対する損害賠償請求訴訟を提起したけれども、後で、家庭裁判所に離婚訴訟を提起された場合の扱いはどうなるでしょうか。
当事者が何も言わなければ、それぞれの事件の審理がそれぞれの裁判所で進められていくことになります。
しかし、上記2のように1つの裁判所で審理を進めてもらって効率化を図りたいという場合には、当事者から申立てにより、裁判所が相当であると判断した場合には損害賠償請求事件の担当を地方裁判所から家庭裁判所へ移して、併合してもらうことが可能です(法8条1項、同条2項)。
このように事件をある裁判所から別の裁判所へ移してしてもらうことを「移送」と呼んでいるのですが、今回取り上げた例は、移送することの相当性について争われた事案を使わせてもらいました。
実際の事件では、要約すると離婚訴訟では問題とならない争点が出るから相当ではないとか、離婚訴訟の審理が一段落するまで損害賠償請求事件の審理は待たされることになって遅延するなどの反論が出ていました。
しかし、裁判所はそれらの反論は採用せず、損害賠償請求事件の審理もまだ残っているから遅延にはならないと判断して移送を認めました(横浜地方裁判所平成25年2月20日決定・LLI/DB判例秘書)。
以上のとおり、離婚に関する事件は幾つも出てくることがあり得るのですが、可及的に効率化を図れる可能性があるというお話でした。常日頃ではございませんが、時折このようなことも検討しております。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。