こんにちは。
当事務所では、不貞慰謝料請求に関するご相談を数多く頂いておりますが、今回は、不貞に関する慰謝料請求権の消滅時効と起算点について、お話ししたいと思います。
1 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効
⑴ 不貞に関する慰謝料請求権は、法的に言うと「不法行為に基づく損害賠償請求権」です。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下のいずれかの場合に消滅時効により消滅します(民法724条)。
① 被害者等が、損害及び加害者を知った時から、3年を経過した時
② 不法行為(不貞)の時から、20年
⑵ ①にいう「加害者を知った時」とは、事実上損害賠償請求が可能な程度に加害者のことを知ったことを意味し、不貞のように加害者が個人の場合は、当該加害者の氏名住所を知った時となります。
⑶ 加害者の氏名住所が分からない状態が3年以上続くような時に、②が問題となります。
以上を前提として、不貞の相手方(第三者)に対する請求権と、不貞をした配偶者に対する請求権の消滅時効と起算点について、それぞれ考えてみましょう。
2 不貞の相手方(第三者)に対する慰謝料請求権の消滅時効と起算点
⑴ 浮気の写真等により相手方の顔は分かるが、名前や住所が分からない場合
これは上記1の⑵の問題であり、不貞の相手方の氏名・住所が判明した時に事実上賠償請求が可能となるため、この時から3年の時効期間がカウントされることになります。
そのため、不貞の事実自体が3年以上前のことであっても、相手方の氏名・住所が判明してから3年以内であれば、請求は可能であり、諦める必要はありません。
⑵ 相手方の顔も氏名も住所も分かってから、3年を超えて不貞が継続している場合
これについては、判例上、昭和41年頃夫と妻以外の女性との間で不貞(同棲)が始まり、約20年後の昭和62年8月に妻から当該女性に対し慰謝料請求訴訟が提起され、同年12月に夫と当該女性の不貞(同棲)が解消されたという事案があります。
この事案の第一審と控訴審では、「同棲関係が終了した昭和62年12月から消滅時効が進行する」という考え方をとり、昭和41年から昭和62年12月までの不貞(同棲)を全体として一つの不法行為と見て、慰謝料請求(500万円)を認めました。
これに対し、最高裁は、提訴した配偶者が「同棲関係を知った時から消滅時効が進行する」という考え方をとり、第一審と控訴審の考え方を破棄しました。つまり、慰謝料請求訴訟を提起した配偶者が、訴え提起日から3年前の昭和59年8月より前に同棲関係を知っていた時は、この時までの同棲関係に係る慰謝料請求権は消滅時効によって消滅するということです(逆に言うと、3年前から提訴日までの同棲関係に係る慰謝料請求権は消滅しないという意味です)。
第一審と控訴審が、「約20年間の同棲(不貞)=全体として一つの不法行為」と見たのに対し、最高裁は、「日々の不貞=それぞれ個別の不法行為」と見たと考えると、分かりやすいでしょうか。
この最高裁の考え方は、いわゆる継続的不法行為に関する最高裁の考え方(「不法占拠のような継続的不法行為の消滅時効は、継続的加害行為により日々刻々と発生する損害につき、被害者がその各々の損害を知った時から別個に進行する」という考え方)との整合性を図ったものと考えられます。
3 不貞をした配偶者に対する慰謝料請求権の消滅時効
⑴ 配偶者に対する慰謝料請求権については、不貞の相手方に対する慰謝料請求権とは分けて考える必要があります。
というのも、例えば、不貞を原因として離婚することになった場合、不貞をした配偶者に対する慰謝料請求としては、①離婚原因となった不貞から生じる精神的苦痛に対する慰謝料(離婚原因慰謝料)と、②離婚そのものによる精神的苦痛に対する慰謝料(離婚自体慰謝料)があり、①と②で消滅時効の起算点が変わるからです。
⑵ もう少し詳しく言うと、①については、不法行為である不貞に対する慰謝料請求権ですので、基本的に上記1及び2の考え方が当てはまることになります。
なお、あまりメジャーではないかもしれませんが、一方配偶者が他方配偶者に対して有する権利は、婚姻解消時から6ヶ月間は消滅時効の進行が停止します(民法159条)。そのため、3年より前の不貞(同棲)の事実があったとしても、この6ヶ月の間に訴訟を提起すれば、時効を中断できることになります。
⑶ ②については、離婚成立によって損害が発生することになるため、離婚成立時から3年を経過したときに消滅時効にかかることになります。