前回(今月5日)の離婚ブログでは、離婚時の財産分与と税金について、分与する側に分与すべき物の値上がり益に対する譲渡所得税、分与を受ける側に贈与税の問題があり、離婚届の受理前・受理後でそれぞれ扱いが違うことを書きました。
これを踏まえて、今回は具体例を検討していきます。少々長くなりますが・・・。
例
夫Aと妻Bは、結婚から10年目で離婚することになったが、財産分与の件で話し合いがまとまらず、まだ離婚届は出していない。二人が婚姻継続中に得た「夫婦の財産」と呼べるものは、時価8000万円の土地付きの家だけである。二人はここに同居していたが、今般、Aが家に住み、Bは実家に戻るというところまでは話がまとまった。
この状態で離婚が成立したとき、AとBにはどのような課税がされるか。また、双方の税負担を軽減するためには、どのような措置をとることが考えられるか。
なお、この家は、購入時は3000万円であり、名義はAの単独名義であるが、AとBとがそれぞれ1500万円ずつ出し合って購入したものである。
また、今回の財産分与には、慰謝料や扶養といった観点は含まないものとする。
検討
Bへの課税
まず、Aは財産分与で土地付きの家を得ています。名義はA単独でも、購入費用は折半なので、Bにも半分の持分があります。なお、今回のBの持分は潜在的でなく、具体的な持分です。購入費用や負担の程度からBの具体的持分が無いと考えられるときには、AがAの物を得るという話ですから、この家に関してBへの課税はありません。
設例の状態で、Bが出て行ってAがこの家に住むということは、Bが自分の持分をAに渡したとみることになります。Bの持分は、8000万円の半分ですから、価格にして4000万円です。ここから、取得費用の1500万円を控除した2500万円がBからAに譲渡されたといえます。Bは財産分与までこの持分を10年間保有していたので、Aへの持分譲渡により発生するのは長期譲渡所得(所得税法33条3項2号)ですから、特別控除額の50万円を引いたうえでさらに1/2を乗じた1225万円が課税対象となります(同法33条3項柱書、22条2項2号)。
これがさらに内部通算、損益通算、所得控除、税率適用、税額控除を経て最終的な税額が決定します。
Bとすればお金をもらっていないのになぜ、という不満はもちろんあるでしょうが、実はBはこの持分の譲渡によって「財産分与義務の消滅」という経済的利益を得たとみられるのです。お金の形はしていなくても利益は得ている、ということです。
Aへの課税
Aは土地付きの家を得ており、これには4000万円分の価値がありますが、この譲渡に関してはAには特に贈与税は課税されません。
不動産取得税はどうでしょうか。Bのところで見た通り、今回の財産分与は、購入資金や夫婦として同居していたことからみて共有物の分割です。したがって、Aがもともと持っていた持分4000万円には不動産取得税は課税されません。しかし、Bから譲り受けた持分4000万円については不動産取得税が課税されます。
今回はもとよりA単独名義でしたから、新たな登記の必要がないので登録免許税(不動産価格の2%)はかかりませんし、固定資産税もおそらくいままでAの名で送られてきたでしょうから、これもA負担で従前通りということです。
節税対策の提案
今回のAとBは、結婚から10年で離婚ということになってしまいましたから、贈与税の配偶者控除(2000万円まで)を利用した節税は利用することができません。しかし、今回の財産分与の対象は、これからもAが居住し続ける不動産ですので、離婚届を出した後であれば、もはやAとBとが配偶者でなくなることから、租税特別措置法35条の特別控除が受けられます。
これは、先ほどBの計算で控除した特別控除額50万円を控除せず、しかし代わりにBの譲渡所得から3000万円までの控除を行うことができます。これで今回Bに課税対象の譲渡所得は無くなりますね。
これでもまだ譲渡所得が残るという場合には、離婚届を出すのをもう少しだけ待って、結婚10年を超えてから離婚することにより、所得税と住民税に軽減税率が適用されます。
なお、税務署に、今回の財産分与が共有物の分割であるということを示すために、購入時に二人が出したお金の額などを証明するような書面があればいいですし、離婚協議書などを作成してそこに明示することも考えられます。登記されていない持分というのは目に見えませんので、税務署を説得するための資料を用意しておこうということですね。
離婚協議書については、どういうものかわからなければ、「離婚協議書キット」から解説ページにジャンプできますので、ご覧下さい。
仮に、設例からは離れますが、今後Aがこの家に住まなくてもいいというのであれば、この家をAとBとの共有名義にしてから転売すれば、控除額の枠は3000万円×2で6000万円まで広がります。すると、時価で転売できれば、A・Bには8000万円が入ってきますね。8000万円から取得費用3000万円を控除した譲渡所得課税対象の5000万円を、控除額の6000万円が上回るので、この件に関する譲渡所得課税は無くなりますから、あとはお金で夫婦の財産関係を清算するというのもいいでしょう。
ただ、この名義変更が、もともとあったBの持分を明示するという趣旨であって、贈与等の譲渡行為が新たに行われたわけではないということは、税務署にわかるようにしておく必要があるでしょう。