離婚のときには、離婚の当事者間でいろいろとお金が動きます。
 離婚関係で当事者間のお金が動く根拠は、大まかに分けると①財産分与、②慰謝料、③婚費ないし養育費です。
 今回は、財産分与の場合について考えてみたいと思います。

1 総論

 財産分与について、民法では、「離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」と規定されています(768条1項)。簡単に言うと、婚姻継続中に夫婦で築いた財産を、離婚に際して夫の分と妻の分とに分けることを言い、夫婦には互いに財産分与請求権が認められています(婚姻継続中に得た財産であっても、明らかに一方配偶者の所有物として取得した「特有財産」は財産分与の対象になりません)。

 ただ、一口に財産を分けると言っても、財産分与には3つの意味があるとされており、少し厄介です。第一に財産関係の清算、第二に離婚に伴う損害の賠償、第三に離婚後生活に困窮する配偶者の扶養です。このうち、第二の損害の賠償については「慰謝料」編で、第三の「扶養」については「婚費ないし養育費」編で扱うとして、今回は財産関係の清算についての租税関係を考察してみます。

 財産分与について問題になるのが、所得税、贈与税、不動産取得税、登録免許税でしょうか。不動産取得税と登録免許税は、ここではおいておきましょう。

2 所得税について

(1)譲渡所得税 基礎

 所得税のなかで、譲渡所得税(所得税法33条)を検討する必要があります。譲渡所得税は、資産を得た時から手放す時までの間にその資産に蓄えられてきた値上がり益(この値上がり益のことを「譲渡益」といい、譲渡などの行為により実現した時に「譲渡所得」として課税の対象となります。)に対する課税ですから、持っていた資産を手放す時に、その資産を持っていた人に課税されます。

 お金や金銭債権はそもそも値上がりしませんから、お金で夫婦の財産関係をすべて清算した場合には、譲渡所得は発生しません。

 大学の教授たちの意見のなかには、財産分与はそもそも譲渡ではないという意見も強いのですが、残念ながら判例をふくめた実務運用としては、財産分与は譲渡であって譲渡所得税が課税されるとされています(ただし、夫婦が互いに具体的な共有持分を有するときにこれを分けることは、譲渡ではなく共有物分割とされています。)。

(2)譲渡所得税 居住用不動産の財産分与

 財産分与で分ける財産が、夫婦のマイホームであるというとき(片方がそのまま居住し、もう一方が出ていくという形になるでしょう。)、離婚届を受理された後であれば、課税の対象となる譲渡所得の金額から3000万円を特別に控除することができます(租税特別措置法35条)。離婚届が受理される前にはこの控除を受けることができません。

 離婚届が受理される前であっても、片方がマイホームに居住し続けもう一方が出ていくという事態は「夫婦間の居住用財産の贈与」とみることができますから、贈与税の問題になります。婚姻期間が20年以上にわたる夫婦間で贈与がなされた場合であれば、贈与税は2000万円までを控除することができます。

 さらに基礎控除として別に110万円を控除することもできます。

3 贈与税について

 贈与税は相続税法の一部として規定されています。

 贈与税は財産を受け取った人に課税されますが、財産分与の場合にはごく一部の例外を除いて課税されないこととされています。そして、財産分与としては100万円ぶんが相当であるのに1億円分の資産をもらったというような極端な場合でない限り、この例外にはあたりません。

 ・・・と、かなり長くなりましたが、まだまだ終わりそうにありません。今回はここまでにして、次回の財産分与編2では、以上のことを具体例で見てみましょう。
 財産分与と税は、制度自体も相当わかりにくいもので、今回のお話でもよくわからないという方は多いと思います。その場合は、直接弁護士にご相談ください。