前回は、保護命令の申立権者と保護命令申立書の記載内容について解説しました。今回は、保護命令の方法についてもう少し補足したいと思います。
1.申立の理由としての配偶者暴力相談支援センター又は警察に相談した事実について
保護命令の申立ては、配偶者暴力相談支援センター、又は、警察に対して保護を求めたか否かにより、手続きに違いがあります。
被害者が、配偶者暴力相談支援センター、又は、警察に対し保護を求めたことがある場合には、その旨を申立書に記載することにより、裁判所は、配偶者暴力相談支援センターの長や警察に対し、被害者が保護を求めた状況やこれに対して執られた措置の内容を記載した書面の提出を求めます。
なお、この「保護を求めた」には、電話による相談は含まれないので注意してください。
被害者が、配偶者暴力相談支援センター、又は、警察に対し保護を求めたことがない場合には、公証人作成の宣誓供述書を申立書に添付しなければなりません。
2.「宣誓供述書」の作成方法
公証人作成の宣誓供述書とは、被害者が配偶者から暴力を受けた状況等について記載した書面を公証人役場に持参し、被害者が、公証人の面前で書面の記載が真実であることを宣誓して署名捺印して、公証人に証明してもらって(認証)作成された書類です。
3.配偶者からの暴力に加え、子どもに対する虐待がある場合の対処方法
保護命令は、未成年の子どもに対する接近禁止命令を併せて申し立てることが可能ですが、子どもに対し虐待がある場合には、児童虐待の防止等に関する法律で対処する必要がありますので、児童相談所に相談してください。
4.保護命令の申立に当たり被害者(申立人)が注意すべきこと
(1) 被害者が、虚偽の記載のある申立書により保護命令の申立てをした場合には、10万円以下の過料に処せられます。
(2) 被害者(申立人)と加害者(相手方)が同居中の場合、相手方宛の期日呼出状及び保護命令の決定書を受領しないように注意してください。
(3) 保護命令申立事件の申立書等の裁判記録は、当事者が閲覧・謄写を求めることができます。加害者(相手方)が、保護命令の記録を見る可能性があるので、被害者(申立人)が加害者(相手方)から身を隠している場合には、保護命令の申立書や添付書類などに現在の住所や連絡先がわかるような事情を記載しないように注意しましょう。
5.保護命令の管轄裁判所
保護命令の管轄裁判所は、地方裁判所です。保護命令を申し立てる地方裁判所は、相手方の住所(日本に住所がないとき、又は、住所が不明なときは居所)の所在地を管轄する地方裁判所、申立人の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所のいずれかに申し立てることができます。
6.申立書の提出方法
管轄裁判所に持参して提出する他、郵送(書留郵便)で提出することもできます。
7.保護命令事件の審理方法
保護命令事件では、被害者(申立人)の保護のため、裁判所は速やかに裁判することとされています。保護命令は、原則として、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経て発せられますが、緊急を要する事情がある場合には、口頭弁論期日を経ることなく、保護命令を発することができます。
8.保護命令の効力発生日はいつか
保護命令は、裁判所が期日に保護命令を言い渡したとき、又は、保護命令が発令され、加害者(相手方)が決定書を受領したときから効力を生じます。 決定が発令されたときは、保護命令の発令と決定の内容が裁判所から各都道府県警の長に連絡されます。
9.加害者が保護命令に違反した場合の対処方法
保護命令に違反した者は、1年以下の懲役、又は、100万円以下の罰金に処せられます。加害者(相手方)が、保護命令の効力が発生した後も、被害者につきまとったり、住居から退去しない場合には、被害者が処罰を求めるか否かにかかわらず刑罰が科されます。従って、保護命令の効力発生後に加害者(相手方)がつきまとう等した場合には、自衛策を講じるとともに、警察に通報して警察の保護を求めて必要な措置を講じてもらってください。
参考文献:「配偶者暴力に関する保護命令手続Q&A 配偶者からの暴力による被害者を救済するために」函館地方裁判所民事部作成
弁護士 石黒麻利子