1 はじめに

 こんにちは、弁護士の伊藤です。

 前回は、『離婚と先立つお金』の話と題して、収入のない配偶者が離婚手続中の生活原資を確保するための法的手段をご紹介しました。

 今回は、攻守所を変え、離婚に際してお金を払う側の立場に立って、財産分与をテーマにお話をしたいと思います。

2 離婚と出ていくお金

(1) 離婚で出ていくもの

 離婚が有効に成立すると、婚姻関係は解消して、婚姻から生じる一切の権利義務は将来に向かって消滅します。その消滅する義務の中には、夫婦の同居義務(民法752条)も含まれていますので、これによって、まずは夫又は妻が結婚生活を送っていた(かつての)“愛の巣”を出ていくことになります。

 さらに、離婚した者の一方からの請求があった場合には、「財産分与」(民法768条1項)として、他方の財布からお金が出ていくことになります。

(2) What is 「財産分与」?

 そもそも、「財産分与」とは何かという点については、明文の定義規定がないため議論のあるところですが、①婚姻中の夫婦の共同財産の清算、②離婚後に経済的劣位にある配偶者の扶養、③離婚慰謝料などの多様な要素を含むものだと説明されています[1]

(3) How much 「財産分与」?

 離婚が現実のものとなった(または、その予備軍である)方が気になるのは、小難しい法律論などよりも、やはり「いくら払うことになるのか!?」という点なのではないでしょうか。

 「財産分与」の金額や支払方法といった具体的内容は、まずは、個々の(元)夫婦の自主性を尊重する点から、当事者同士の話し合い(法律用語で「協議」といいます。)で決めることになっていますが、話がつかない場合には、家庭裁判所で判断してもらうことになります(民法768条2項)。

 その場合、家庭裁判所は、その夫婦の「一切の事情」(民法768条3項)を考慮して、「財産分与」の金額や支払方法を決めます。ここにいう「一切の事情」には、婚姻生活の期間、生活状況、職業、協力の程度、婚姻のため一方が収入の途を失ったか、離婚に対する有責性、離婚後における生活の見通しなど、婚姻の前後を通じてのあらゆる事情が含まれます[2]

 そのため、ある夫婦が離婚する場合の「財産分与」の具体的な金額は、機械的にはじき出すことはできず、やってみなければわからないというのが、正直なところです[3]

(4) 統計からみた「財産分与」

 そうはいっても、「財産分与」の金額を確かめるために、おいそれと離婚をしてみるという訳にもいきません。そこで、ここでは統計からみんながどれくらいのお金を「財産分与」として支払っているのかを見てみることにしましょう。

 まず、平成22年度に離婚した夫婦の平均同居年数は、10.9年[4]。これを平成22年度中の「財産分与」の支払額を婚姻期間別にまとめた統計[5]にあてはめると、次のようなことがわかります。

 最も多くの人(全体の約4分の1)が支払っている「財産分与」の金額は、100万円以下。結婚生活1か月あたりで考えると、1万円を割り込みます。その一方で、1000万円以上支払った人も16%以上いるので、その差はかなり大きいです。

3 最後に

 「財産分与」の金額にかくも大きな差が生じているのは、その金額決定に際して、夫婦の「一切の事情」が考慮をされている点に原因があると思われます[6]。換言すれば、「財産分与」の金額は、夫婦の「一切の事情」について論じる、交渉の過程に大きく左右されるといえるでしょう。金額の話はおくとしても、どうせ払わなければならないお金なら、せめて言うべきことを言って、自分なりに納得してから払いたいと思うのが人情だと思います。

 「財産分与」を含めた離婚交渉をする際、ご自身の言い分をしっかりと家庭裁判所や相手方に届けたいと思われた方には、私たち弁護士がお力になれるものと考えます。どうぞお気軽にご相談ください。

 今回のお話は以上となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

[1] 最判昭和46年7月23日・民集25巻5号805頁、東京弁護士会法友全期会家族法研究会「離婚・離縁事件実務マニュアル(改訂版)」145頁など。
[2] 司法協会「親族法相続法講義案(六訂再訂版)」87頁。
[3] もっとも、清算的財産分与においては、清算割合を、特段の事情のない限り、2分の1ずつとするのが実務の大勢。
[4] 厚生労働省「人口動態統計年報(平成22年度)」(離婚)第1表‐同居期間別にみた離婚件数・平均同居期間の年次推移。
[5] 最高裁判所「司法統計 家事 平成22年度」第25 表‐「離婚」の調停成立又は24 条審判事件数‐財産分与の支払額別婚姻期間別‐全家庭裁判所。
[6] 他に、解決金名目であいまいにしている面もある。

弁護士 伊藤蔵人