1.ご挨拶ならびに今回のテーマについて
あけましておめでとうございます。
初めまして、本年1月5日から弁護士として勤務しております藤田大輔です。
初投稿ということになりますので、基本的な内容から記事を書いていこうと思います。
よろしくお願いいたします。
今回は、協議離婚の際に必要な要件とされる、離婚の意思について書いてみたいと思います。
2.協議離婚に必要な要件とは?
協議離婚は、①当事者間において離婚の合意がされ(民法763条)、②戸籍法の規定に基づき届け出をすることによって成立します(民法765条)。
つまり、協議離婚が成立するには、実質的要件として当事者間に離婚意思の合致があること、形式的要件として届出が必要となります。 夫婦の間に未成年の子がある場合には夫婦のどちらかを離婚後の親権者と定めたうえで届出をする必要があります(民法819条1項、765条1項)。
3.離婚の意思とはどういう意思を意味するのか?
では、協議離婚の際に必要となる離婚意思とはどういう意思なのでしょうか?
この点については、法律上の婚姻関係を解消する意思さえあればよいという考え方(形式的意思説と呼ばれます)と、習俗上の夫婦の結合を解消する意思まで必要と考える考え方(実質的意思説と呼ばれます)が主張されています。
裁判所はこの問題をどのように考えているのでしょうか?
最高裁の判例(最判昭和57年3月26日判時1041号66頁)を見てみましょう。
事案の概要
Xと亡Yは婚姻関係にあったが、Yが病気により倒れてしまい、収入が途絶えたためにYが市から生活保護を受け、Xの収入と合わせて家族(子供2人を含む)の生活費としていた。
しかし、市の担当者から、Xの収入は生活保護費から控除されるべきであることや、Xの収入の届出をしないと生活保護費の不正受給になることを告げられた。
そこで、それまでYが受給していた生活保護費のうち、不正受給となる部分の返還を免れ、これからもYが従前どおりの額の生活保護費を受給し続けるための方便として、XとYは離婚の届出をした。
最高裁の判断
このようなケースにおいて、最高裁は「本件離婚の届出が、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであって、本件離婚を無効とすることはできないとした原審の判断は、その説示に徴し、正当として是認することができ」る、との判断を示しており、形式的意思説を採用していることがわかります。
最高裁は、この判決以前の旧法下の事件においても、妻が戸主となっているところ夫に戸主の地位を与えるための方便として事実上の婚姻関係を継続しつつ協議離婚の届出をした場合にも、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致さえあれば協議離婚が有効に成立する、との立場を採用しており(最判昭和38年11月28日民集17巻11号1469頁;判時360号26頁)、上記昭和57年の最高裁判例もこの立場を踏襲したものと考えられます。
下級審レベルでは、夫が負債を抱え、債権者からの追求が妻にまで及んでおり、夫から離婚届に署名をすれば負債の件がうまくいくと告げられ、妻は家産の維持に少しでも役に立てばよいと思い、実質は離婚する意思がないにもかかわらず離婚届に署名したというケースにおいても、法律上の婚姻関係を解消する意思があった以上、離婚は有効であると判断する裁判例(東京地判昭和55年7月25日判タ425号136頁)があります。
4.なぜ、離婚の意思の内容について形式的意思説が採用されるのか?
この点について考えてみるには、婚姻の意思との対比で考えると分かりやすいと思います。
一般的に、婚姻の際に必要とされる婚姻の意思とは、「社会通念上夫婦と認められる関係を形成しようとする意思」が必要、つまり、実質的意思説の立場が判例・通説となります。
この違いは、婚姻というものは、社会通念により予定された形態があり、婚姻意思とはその形態を形成しようとする意思であるので、「社会通念上夫婦と認められる関係を形成しようとする意思」、つまり実質的な婚姻意思までが必要とされるのです。
他方で、離婚は夫婦関係の解消を意味するのであり、離婚後の両者の関係については社会通念により予定された形態というものは存在しません。
たとえば、離婚後には二度と会わない人もいれば、離婚後にも事実上の婚姻生活を続ける人もいるでしょう。子供の有無によっても離婚後の両者の関係は変化するでしょう。
この観点から、離婚の意思とは法律上の婚姻関係を解消する意思で足りると考えられるのです。
5.最後に
世間では、「結婚するのは簡単だけど離婚するのは大変だ!!」と言われます。
確かに、協議離婚をするとしても、互いの感情を整理したうえで、財産分与や慰謝料の支払い、子供の養育費支払いの問題など離婚に付随する法的な問題をクリアする必要が生じます。
しかし、適法に協議離婚し、法律上の夫婦関係の解消をすることのみに着目した場合、当事者に離婚届の提出に向けた意思の合致さえあれば、あとは協議離婚の届出をするのみで離婚が成立するのであり、それほど高い法的ハードルがあるわけではない、ということになります。
弁護士 藤田 大輔