今回は、親権についての話をします。婚姻時は、両親の共同親権に服している子供が(民法818条1項、3項)、両親の離婚によって、何れか一方の単独親権に服することとなります(同法819条1項、2項)。婚姻当時は、合意があっても両親の一方だけが親権を行うとすることはできません。また、離婚すれば、合意があっても両親双方に親権を与えることはできません。つまり、上記親権に関する規定は、当事者間の協議でこれを変えることが許されない強行規定なのです。

 とすると、夫婦が離婚する場合には、必ず、何れか一方を親権者と定めねばならず、この指定をめぐって、しばしば激しい争いが起きます。互いに離婚することには同意でも、親権者の指定で一歩も譲らず、離婚成立までに時間がかかることもあるのです。

 ただ、離婚する際の親権者の決め方には、一定の法則、方向性があります。

 まず、一番有名なのは母性優先の原則でしょう(東京高判昭和56年4月27日)。親権者指定が争われたとき、子供は母親の下に置くべきだという考え方です。親権者の指定は、最終的には「子の福祉において」何れが妥当かという観点から判断されます(民法819条6項参照)。母親と父親を比較した場合、一般には、種をまいただけの父親よりも、お腹を痛めて産んだ母親の方が、子と親密度が高く、そのような者に監護させた方が養育上もよい結果が期待できるということでしょうか。なんせ、陣痛の痛みは尋常ではなく、子供が出てくる瞬間は、こんなに痛い思いをするならもう子供は産むまいと思う人が多いと聞きます。男性にはわからない世界です。

 子の親権争奪戦で、9割が母親の勝利であり、父親が親権をとった場合の中には、親権は父だが監護権は母という事例も含まれています。子の年齢が低い程、母性優先性は強くなる傾向があります。親権者と監護権者を分離する例は多くありませんが、どうしても双方の主張が収束せず、親権と監護権を分けることで両者の納得がえられるなら、このような方策もありうるわけです(民法766条)。本来、監護権は親権の一内容をなすものですが、親権の中味を大別すると、財産管理権と身上監護権の二つになります。そのうち、前者を親権者に与え、後者を監護権者に与えるという方法です。財産管理権には、子の財産管理、法律行為の代表権(民法824条)、財産管理の善管注意義務・管理計算義務(同法827条、828条)、財産無償付与者による財産管理権剥奪(同法830条)等の規定があり、身上監護権には、監護教育権(同法820条)、居所指定権(同法821条)、懲戒権(同法822条)等が定められています。

 次に重要なのは、監護現状維持の原則です(仙台高決平成7年11月17日)。子供が両親の何れか一方の下で、ある程度の長期間、平穏に生活している状態がある場合、その監護状況は良好であるとの一定の推定が働き、これを変更するよりはそのまま継続した方が子の福祉に資するという考え方です。母性優先の原則下にあっても、父親が親権をとれるケースは、監護現状維持の要請が働くような事例が殆どです。ですから、お父さんが親権をとりたければ、別居時に是が非でも子供を連れて行く、ないし子供を渡さないという覚悟が必要です。

 最後に、兄弟姉妹不分離の原則があります。兄弟姉妹を分けるよりは、一緒に養育した方が子供たちの利益になるという考え方です。2人の子供がいて、お互い主張を譲らないなら、単純に半分こして、1人ずつ親権をとろうというのは、親の理屈であり、子供は兄弟姉妹が離ればなれにされると福祉上いい影響を及ぼさないということなのでしょう。ただ、この要請はそれほど強くはないと言われています。