こんにちは、弁護士の平久です。今回も婚姻費用の請求について考えてみたいと思います。

1 有責性と婚姻費用分担義務

 たとえば、妻が不倫をして、それが夫に発覚してしまい、夫婦関係が気まずくなって別居に至った場合に、妻から夫に対する婚姻費用の請求は認められるでしょうか。これは、婚姻関係の破綻につき責任のある配偶者(有責配偶者)からの婚姻費用分担請求が認められるかという問題です。

 これについては、権利の濫用として分担請求が認められないか、認められるとしても通常の夫婦間における扶養義務よりも軽減されるとする裁判例があります(大阪高裁判決平成16年1月14日)。夫婦間には貞操義務など互いに守るべき義務がありますので、自分がその義務に違反していながら、相手方に対してだけ婚姻費用分担義務の履行を請求するのは虫がよいと考えられてしまうからです。

 ただし、妻自身の生活費の部分については否定されたとしても、子どもがいる場合の監護費用に関する部分については、有責性の有無にかかわらず、生活保持義務の程度まで婚姻費用分担請求が認められます。子どもについては責任がないので、認められるのは当然ですね。

 

2 婚姻費用分担義務の始期と終期

 いつの時点からの婚姻費用を請求することができるのでしょうか。
 これについては、分担の必要が生じた時期からとする立場、別居時からとする立場、請求した時点からとする立場など様々な考え方がありますが、判例の多くは請求した時点からとする立場を採っています。
 一方、婚姻費用分担義務を負うのはいつまでとなるのでしょうか。
 これについては実務上、別居が解消するか離婚が成立するまでとするのが一般的です。

3 過去の婚姻費用の取扱について

 請求した時点以前の婚姻費用についてはどうなるのでしょうか。全くもらえず、払い損ということになるのでしょうか。この点について最高裁は、婚姻継続中における過去の婚姻費用を一方当事者が過当に分担した場合については、それを考慮して財産分与の額及び方法を定めることができると判示しています(最高裁判決昭和53年11月14日民集32巻8号1529頁)ので、財産分与の際に考慮され得るということになります。

弁護士 平久真