こんにちは、弁護士の平久です。今回も引き続き婚姻費用を算定する際にいかなる事情が考慮されるかについて考えてみたいと思います。
1.義務者に同棲する女性がいる場合の生活費等
たとえば、夫が別居後他の女性と同棲し、この女性の生活費を負担している場合、これを婚姻費用の算定に当たって考慮すべきでしょうか。
この点について、多くの裁判例は、原則的に考慮すべきでないとしています。
その理由としては、夫は、まず別居中の妻子に対し、夫の収入と見合いかつ夫自身の生活を保持するのと同程度の生活を保障すべきものであつて、法律上婚姻継続中の妻との関係においては、同棲中の女性に対する生活費は婚姻費用でないのはもちろん、夫自身の生活費ということもできないからです(大阪高決昭和55年2月26日家月32巻9号32頁)。
ただし例外的に、夫婦関係が夫に責任のない理由によって完全に破綻した後に、夫と女性との同棲関係が生じたといった特段の事情が存在する場合には、考慮される可能性があります(東京高判昭和58年6月21日判時1086号104頁)。
2.義務者の親を扶養している場合
夫が自分の親の生活費を負担している場合にはこれを考慮すべきでしょうか。
これについても、原則は考慮すべきでないでしょう。確かに夫は、両親に対して生活扶助義務を負う(民法877条第1項)のですが、妻子に対する生活保持義務の方が優先するからです。
ただし例外的に、両親の生活扶助に関し夫婦の別居前から世帯を同じくし生活保持義務に準ずべきものとなっていたといった特段の事情がある場合には考慮される可能性があります(大阪高決昭和62年1月12日判例タイムズ645号231頁)。
3.義務者の債務
夫が、「自分には借金がたくさんあるので、そんなに婚姻費用を払うことができない。」と主張してくることがよくあります。
しかし、基本的には負債は婚姻費用の算定において考慮されません。
では、住宅ローンについてはどうでしょうか。住宅ローンについても負債ですので基本的には考慮されません。
ただし、夫が妻の住む家を出て別の家を借りていて、妻の住む住宅ローンも自身の賃料も負担している場合には、妻と自身の住居費を二重に負担していると考えられますので、その分については考慮するのが相当だと考えられます。
弁護士 平久真