こんにちは。外を歩けばキンモクセイの香りでいっぱいの季節になりました。
 本日は、財産分与の対象について、お話しいたします。

 財産分与の対象は、夫婦が婚姻期間中に協力して得た財産です。これは、基本的に、夫婦の共有財産となります。これに対して、婚姻期間中に夫婦の一方が得た財産でも、夫婦が協力して得たわけではない財産、たとえば、相続財産などは、特有財産となるので、財産分与の対象となりません。

 ここまでが基本事項なのですが、特有財産だったら、絶対に財産分与の対象とはならないのでしょうか。

 ここで次のような判例(東京高裁昭和55年12月16日判決)があります。

 A(夫)とB(妻)の夫婦がいます。Aは、婚姻後、借地権をAの父から無償で譲り受けました(贈与を受けたということです。)。そのほか、ABには、婚姻後、新築建物、土地などのプラス財産や約860万円の借金というマイナス財産ができました。

 上記基本事項からすれば、借地権は、AがAの父から無償で譲り受けたものだから、AとBの協力によって得た財産ではないので、特有財産となり、財産分与の対象とはならなさそうです。

 しかし、本判決は、そのように単純には考えませんでした。

 この事例では、Aが入院して家業を経営することができなかった間、Bが家業の経営に当たるなど婚姻生活期間中に真摯な努力を重ねて家計に多大の寄与をしたことを重視しました。そして、借地権については、「その取得そのものにBの寄与、貢献があったとはいえないが、その維持のためにBが寄与したことが明らかであ(る)」として、Bが借地権の形成・維持に寄与した割合を、借地権価格の1割と認め、借地権価格の1割相当額を財産分与の額に組み入れました。

 なお、そのほかの財産についてのBの形成・維持への寄与度は、5割と認定されました。

 借地権については、財産の取得そのものにはBの寄与があったとはいえないと認定されながらも、財産分与の対象とされました。この理由について、この判決は述べていませんが、借地権には、得たとしても、その後賃料を継続的に支払わなければ維持できないという性質があるからかもしれません。