前回は、配偶者から暴力を受けた場合の相談窓口、保護命令の概要、保護命令の種類について解説しました。今回は、保護命令の手続きについてお話ししたいと思います。
まず、「誰が保護命令の申立てをすることができるか」ですが、保護命令の申立てをできるのは、配偶者(事実婚を含む。)又は元配偶者から暴力を受けた被害者に限られます。被害者や加害者が外国人であっても申立てをすることができます。申立て前に離婚した場合は(事実上の婚姻関係を解消した場合も含む。)、離婚をする前に受けた暴力を理由に保護命令の申立てをすることができますが、離婚後に受けた暴力だけを理由とする申立てはできません。暴力が離婚後に行われた場合には、刑事法やストーカー規制法の対象になりますので、警察に相談してください。
次に、「保護命令の申立て方法」ですが、保護命令の申立ては書面でしなければならず、口頭による申立てはできません。
保護命令が発令される要件は、「被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」こととされています。そこで、保護命令の申立書には、次の事項を記載する必要があります。
1 当事者の氏名及び住所
申立人の現在の住所が相手方に判明することによって、申立人が更に被害に遭う可能性がある場合、申立人は、住民票上の住所や相手方配偶者と共に生活の本拠地としていた住所を記載することができます。また、申立人代理人の住所等、相手方に知られても不都合のない送達場所を指定することも出来ます。
2 申立代理人の氏名及び住所
3 申立の趣旨
発令して欲しい保護命令の内容を書きます。接近禁止命令のほか、当事者が生活の本拠を共にする場合には退去も求めることができます。
4 申立の理由
(1)配偶者から暴力を受けた状況を記載します。いつ、どこで、どのような暴力を受けたか、暴力を受けるに至った経過等について記載します。
(2)更なる配偶者からの暴力により生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい事情。
(3)配偶者暴力相談支援センター、又は、警察に相談した事実等
相談した所属官署の名称、相談日時、場所、相談内容、相談に対してとられた措置の内容を記載します。この事実がない場合には、公証人作成の宣誓供述書を申立書に添付して裁判所に提出する必要があります。
公証人作成の宣誓供述調書とは、被害者が配偶者からの暴力を受けた状況等についての供述を記載した書面を公証人役場に持って行き、公証人に証明してもらって作成された書類です。
5 以前に保護命令が発せられた申立理由と同一の暴力を理由として申立て
をする場合(再度の申立て)には、その旨と当該保護命令事件の事件番号を記載します。
6 その他
保護命令の手続きは口頭弁論又は審尋の期日を経なければ発することができませんが、期日を経ることで保護命令申立ての目的を達成することができないほど緊急の必要性がある場合には、期日を開くことなく保護命令を発することができるとされています。このような場合には、申立書に緊急の必要性についても記載します。
申立ての時には、申立書の他に以下の書類(附属書類)が必要です。
- 委任状(弁護士が代理する場合)
- 戸籍謄本(婚姻関係を証する書面として必要です)
- 外国人である場合には、外国人登録事項証明書
- 住民票(当事者の居住関係を証する書面)
- 診断書(配偶者からの暴力を証明する書面)
- 陳述書(事実婚の場合に申立人と相手方との内縁関係等を示す書面)
- 宣誓供述書(申立書に配偶者暴力相談支援センターや警察に相談した事実の記載がない場合に添付する必要があります。)
- 申立書の写し1通(相手方の分)
- 主張書面及びその他の書証の写し2通(裁判所の分と相手方の分です)
- 宣誓供述書の写し1通(相手方の分)
- 子への接近禁止命令を求める場合で、子が15歳以上であるときは、その子の同意書
次回、引き続き保護命令の申立て方法について解説いたします。
参考文献:「配偶者暴力に関する保護命令手続Q&A 配偶者からの暴力による被害者を救済するために」函館地方裁判所民事部作成
弁護士 石黒麻利子