自分の旦那さんや奥さんの様子が怪しいので、黙って気付かれないように携帯電話の着信履歴やメールをチェックしてみたところ、思った通り、浮気の証拠となりそうなメールや写真を見つけてしまった・・という場合、裁判でそのメールを証拠とすることはできるでしょうか。
無断で携帯チェックしてメールを見た、などといったら、間違いなく相手は「なんだよ!人のメール盗み見るなよ!」と激怒するでしょう。他人あてのメールをその人の同意なく勝手に見るという行為が、その人の権利を侵害する行為であることは間違いありません。では、だからといって、それによって得られた証拠まで裁判で使えなくなってしまうのでしょうか?
この点、手続き的な正義が重視される刑事裁判においては、違法な手段で収集された証拠は証拠能力が否定され、裁判で証拠として使うことはできません。
これに対して、民事裁判の場では、違法収集証拠について、刑事裁判に比べ、緩やかな判断がされているようです。
この点に関して、妻が夫の意に反して収集した不貞相手との携帯メールの証拠能力が問題となった下級審の裁判例があります(東京地裁平成18年6月30日判決)。
この事件において、裁判所は、民事訴訟において当事者が出す証拠の証拠能力は、一般的には肯定されるが、その証拠が著しく反社会的な手段を用い、人の精神的、肉体的自由を拘束する等の人格的侵害を伴う方法によって収集されたものであるなど、それ自体違法の評価を受ける場合には否定されるとした上で、使用者の同意なく携帯電話からメールを収集する行為は、通常、使用者の人格権の侵害と成り得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定にあたっては、その手段方法や態様等が著しく反社会的と認められるか否かを基準として考察するのが相当、との判断を示しました。
そして、妻が夫のかばんや衣装ケースから携帯電話を抜き出したり、洗顔中、着用しているジーンズの後ろポケットから携帯電話を背後から抜き取り、これを奪い返そうとした夫の顔や足を数回殴打したりして携帯メールを収集した行為については、夫の人格権を著しく害する反社会的な手段方法や態様において収集したものとまでいうことは困難であるとして、メールの証拠能力を認めました。
しかし、どのような行為が著しく反社会的かと言うのは微妙なところだと思います。
例えば、携帯にロックがかかっているのにこれを外して見たような場合は、他人のパスワードを使って他人のメールボックスにアクセスする行為が不正アクセス行為の禁止等に関する法律 3 条 1 項 に該当することから、場合によっては違法収集証拠として裁判で使えない可能性もあるのではないでしょうか。
弁護士 堀真知子