「夫の暴力で悩んでいます。夫の暴力から逃れるために家を出たいけれど、夫に居場所を突き止められ、もっと酷い暴力を振るわれるのではないかと思うと怖くて決心がつきません。」

 このように、配偶者から暴力を受けている場合の対処方法について、数回に分けてお話ししたいと思います。

 まず、相談窓口ですが、配偶者から暴力を受けた被害者は、配偶者暴力相談支援センター又は警察に配偶者からの暴力について相談し、援助や保護を求めることができます。警察は、暴力の制止、被害者の保護、被害発生防止のための必要な措置を、配偶者暴力相談支援センターは、相談、カウンセリング、一時保護、自立支援のための情報提供、シェルターの利用についての情報提供、保護命令利用に関する情報提供などの措置等を講じてくれますので、暴力被害を受けたときは、これらの機関に相談されるとよいでしょう。又、各弁護士会でもDV被害の相談を受けています。保護命令制度を利用する場合は、弁護士に相談するとスムーズに手続き進めることができます。

 保護命令とは、配偶者から暴力を受けた被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに、裁判所が、加害者の被害者への接近禁止(接近禁止命令)や2か月間の退去(退去命令)を命ずるものです。接近禁止命令と退去命令の両方を命ずることもできます。一定要件のもとに未成年の子どもに対する接近禁止命令も併せて申し立てることができます。また、既に保護命令の発令を得た被害者が、加害者から新たな暴力を受けた場合には、その新たな暴力の事実を理由として再度保護命令の申立てをすることができます。保護命令に違反した場合には、加害者は刑事処分(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)を受けることになります。

 保護命令の種類について、以下でもう少し詳しく解説します。

保護命令の種類

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律 第10条

1 退去命令

被害者と加害者が同居している場合に、加害者に対して2か月間、被害者と一緒に生活している住居から退去することおよびその住居の付近を徘徊してはならないことを命ずる命令

2 接近禁止命令

(1) 被害者への接近禁止命令
配偶者が被害者の身辺につきまとったり、住居や勤務先等の付近を徘徊することを禁止する命令

(2) 被害者の子への接近禁止命令
加害者に、被害者への接近禁止命令の期間中、被害者と同居している未成年の子の身辺につきまとい、又はその通常所在する場所の付近を徘徊してはならないことを命ずる命令
 加害者が被害者と同居している子を連れ戻す疑いがあるなどの事情により、将来、子供の身上を監護するために、被害者が加害者と面会せざるを得ない事態が生じるおそれがある場合に、被害者の生命または身体に対する危険を防止するために発せられます。子が15歳以上のときは、子どもの同意がある場合に限られます。

(3) 親族等への接近禁止命令
配偶者が、被害者の親族等の住居に押しかけて著しく粗野又は乱暴な言動等を行うことにより、被害者がその行為を制止するため配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するために発せられる命令

(4) 電話等を禁止する命令

ア 面会を要求することを禁止する命令

イ 被害者の行動を監視していると思わせるような事項を告げ、またはその知り得る状態におくことを禁止する命令

ウ 著しく粗野又は乱暴な言動をすることを禁止する命令

エ 電話をかけて何も告げず、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信することを禁止する命令

オ 緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信することを禁止する命令

カ 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くことを禁止する命令

キ その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くことを禁止する命令

ク その性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくはその知りうる状態に置くことを禁止する命令

(2)~(4)は、被害者への接近禁止命令と同時または被害者への接近禁止命令が発令された後に発令されます。
 次回は、保護命令の手続きについて解説します。

参考文献:「配偶者暴力に関する保護命令手続Q&A 配偶者からの暴力による被害者を救済するために」函館地方裁判所民事部作成

弁護士 石黒麻利子