今回は、婚姻費用に関するお話です。

 以前、4月19日のブログで、特有財産の果実(不動産の賃貸によって得た賃料収入等)が財産分与の対象となるか、というテーマでお話ししましたが、今回は、特有財産の果実が婚姻費用算定の基礎となるかというテーマについてお話しします。
 (記事はこちら:特有財産の果実は特有財産か?

 婚姻費用の算定は、婚姻費用を支払う方(義務者。通常は夫)と支払いを受ける方(権利者。通常は妻)の収入を元に計算します(この計算式は少々複雑ですので、実務では算定表を使って簡易に計算することが多いです)。当然、権利者の収入に対して、義務者の収入が多ければ多いほど、義務者が支払わなければならない婚姻費用の額は高くなります。

 では、夫が、給与収入とは別に、親から相続した土地や建物を持っていて、そこからも賃料収入を得ているような場合、その賃料収入も夫の収入として合算して計算の基礎としていいのでしょうか。

 妻の側からすれば、もちろん、これも合算すべきと主張したいところです。しかし、離婚の時の財産分与の場合には、特有財産は財産分与の対象とされませんし、4月19日のブログで紹介したカリフォルニア州民法や昭和46年の審判例では、特有財産の果実も財産分与の対象とされないとされています。離婚する場合に共有財産ではないとされるのであれば、婚姻中も、特有財産の果実は夫だけのものであって、妻には関係ない、と考えられるのではないでしょうか?

 この点については、夫が高額の財産(6億6000万円の不動産)を相続し、それを賃貸して賃料収入を得ていた場合であっても、夫の給与所得によって同居中の家庭生活が営まれており、夫の相続財産及びそれから生じる賃料収入が直接生計の資とされていなかった場合、別居後の婚姻費用分担額を算定するにあたっても、夫が財産を所有し、ここから相当多額の公租公課を負担していることをいずれも考慮せず、夫の給与所得のみに基づきその分担額を決定すべきとした高裁決定があります(昭和57年7月26日 東京高決)。

 確かに、もともとその賃料収入が共同生活の資でなかった場合、妻としては、従前と同じ生活を保持することができればよいのですから、相手方の給与所得に基づいて分担額を決めれば足りることになります。

 しかし、この理屈からすると、逆に、給与所得だけでなく、賃料収入も含めた金額が共同生活に使われていたような場合は、妻の側から、いくら特有財産からの果実であっても、婚姻費用の算定の基礎とするのが相当、という主張がされることになるでしょう。やはり、特有財産からの果実か否かという形式的な面だけでなく、その金銭が夫婦の生活の中でどのように使われていたかという実質的な面をしっかり調査することが不可欠と考えられます。

弁護士 堀真知子