こんにちは。弁護士の長谷川です。

 前回に引き続き、性格の不一致についてお話しします(今日は、ちょっとだけ真面目モードでお話しますね)。

 判例で「性格の不一致」が離婚理由として問題になったケースには、どんなものがあるのでしょうか?・・・ということで、判例といったら、最高裁。
 性格の不一致が離婚原因たり得るか問題となった最高裁判例昭和38年6月7日の事案です。
 これは、大学教授(夫)とその妻の間の離婚問題です。夫婦には、4人の子どもがいましたが、夫婦双方とも自己尊重感情がとても強く、互いに、自分と違う考え方/行動をとる相手方に対して排斥的な性格でした。
 その為、婚姻の早い時期から夫婦間にはいざこざが絶えず、結婚17年目には、遂に別居となりました。その後、11年間を別居し続け調停・離婚訴訟と戦い続けています。なお離婚請求は、夫の側からしています。

・・・・・・。まあ、率直に言って、昔の人って偉いですよね。何だかんだと揉めながらでも、17年間は頑張って同居していたんですもの。しかもこの間、親族や夫の職場の人間を間に入れて夫婦の仲をとりもつように努力したり。。。  それでもダメだとなるや、その後は戦い続けること11年!
 更に更に、戦い続けた裁判の内容も、第1審では、夫側の敗訴になりましたが、高裁では「性格の不一致と愛情の喪失が原因で婚姻関係が破綻した」と認定し、夫の離婚請求自体は認容されました。ところが、最高裁は「双方の反省と努力によって円満な夫婦関係が回復する期待も推認できる」として事件を高裁に差し戻しています。あ、「差し戻す」っていうのは、つまり、離婚を認めた高裁に対して、『再度、考え直しなさい』と言っているわけです。

 うそーっ?!って感じじゃないですか?
 17年間、必死で同居を継続し、その間、夫婦仲を調整する為に夫の職場の人間にまで介入して貰い、それでもダメだったから「離婚したい」と11年間も戦ったのに、最高裁は「双方の反省と努力によって円満な夫婦関係が回復する期待も推認できる」って!!!
 この状況で、どうして「円満回復の期待あり」と言えるのか、こんな状況でも破綻を認めてくれないということは、「性格の不一致」を離婚原因にするのにどれだけハードルが高いんだって感じですよね。

 もっとも、皆さんの中には、「こんなの古い判例じゃないか」って仰る方もいらっしゃると思います。
 確かに、これは古い判例ですし、平成に入ってからの地裁判決や高裁判決の中には、もっとずっと短い別居期間(たとえば3年とか3年半とか)で、性格の不一致により愛情喪失→破綻といった流れで離婚を認める判例があるようです(東京地裁平成8年12月16日判決、大阪地裁平成4年8月31日判決等)。

 ただ、私達の業界では、「最高裁判例が一番偉い!」「最高裁の言うことはほぼ絶対」という暗黙の了解があります(私達は実務家なので、やはり、どうしても「判例こそが全て」となってしまいがちで、そこが学者の先生方と決定的に違うところだと思います)。
 その為、たとえ古い判例であっても、最高裁判決がある以上、やはり、性格の不一致で離婚することは、容易なことではないと考えざるを得ません。

 実際、有責配偶者からの離婚請求については、従前、最高裁が判示していた3要件のうち、長期別居の要件が、地裁/高裁レベルで徐々に短くなる傾向にありました。裁判官の中には「有責配偶者はお金で調整。結論は離婚」と断言している方もいらっしゃったくらいです。
 しかし平成16年11月18日、最高裁が、同居期間6年7ヶ月、別居期間2年4ヶ月の夫婦について、離婚請求を棄却しました。高裁では離婚を認めていましたから、この最高裁判断によって、「有責配偶者からの離婚請求は、そう簡単に認められないんだぞ!」という従前からの最高裁の立場が改めて強調され、実務の雰囲気がかなり変わったことがあります。
 それまでは、何だかんだと言っても「破綻主義(=簡単に言ってしまえば、『理由は何であれ、ダメになったものはダメだから離婚を認めましょう』という理屈です)」が実務の大勢でしたから、有責配偶者案件でも、お金をある程度払うことさえ覚悟してしまえば、提訴すれば離婚は何とかなる!と思っていた弁護士は(私も含めて)多かったと思います。
 しかしこの最高裁判例によって、改めて、「有責配偶者案件は、要注意!」という雰囲気に変わりました。

 なので、性格の不一致についても、上記のように、「絶対ありえない!」と思えるような最高裁判例であっても、それが「最高裁判例」というだけで、「性格の不一致で離婚するのは容易ではない」という覚悟が必要になります。
 これから性格の不一致を理由に離婚をお考えの皆様、悪いことはいいません、他の離婚理由を見つけましょう。少なくとも、「性格の不一致」だけでは、嫌がる相手との離婚にこぎ着けるのは困難ですから(笑)。

弁護士 長谷川桃