1 離婚事件の特徴

 どうして離婚事件では交渉が基本なのか…。

 そもそも、通常の私人間紛争でも交渉が基本と言えば基本です。特に裁判沙汰を好まない日本人の国民性を考えると、交渉すなわち話し合いで解決するのが理想です。

 しかし、他の事件に比べて、離婚事件における交渉の重要性は強調しておきたいと思います。その理由は、

 第1に、離婚事件の8割以上が協議離婚で終了しています。

 第2に、離婚紛争を解決するための法制度が、交渉を基本とする内容になっています。いわゆる調停前置主義です。

 協議離婚のケースで、ご主人が5000万円の慰謝料を支払うと記載してある公正証書を見たことがあります!交渉力抜群の奥さま、恐るべし…。
 これは極端なケースですが、実際にあった現実のお話です。

 ほとんどの離婚が夫婦間の協議で行われていることを考えると、交渉力の重要性が分かります。判決ではありえませんよ、5000万円の慰謝料なんて。

 さて、協議で離婚が整わなかった場合ですが、いきなり裁判はできません。
 「調停前置主義」というのがあって、まず調停を試みて、それでもだめで決裂した場合に、やっと離婚裁判ができることになります。
 通常の紛争では、もちろん民事調停を利用することも可能ですが、いきなり裁判を起こすこともできます。

 それなのに、離婚において調停前置主義が採用されているのは、夫婦の問題は話し合いで解決するのがベターであるという考え方があるからです。
 調停では、裁判所が関与しますが、結局は話し合いです。なので交渉が基本ということになります。

2 交渉力は状況で変わる!

 確かに、交渉が上手な人はいます。
 「うちの女房は我儘で主張を曲げないから、結局俺が譲歩しなければならなくなる」という場合、奥さまの交渉力が強そうです。
 「うちの主人は、口が達者で弁がたつので、調停委員も丸め込まれてしまうと思うわ」という場合、ご主人の交渉力の強さをうかがわせます。

 しかし、交渉というものは、状況によって変わるものであるということを知っておいて損はしません。自分が交渉で有利な立場にあるのか不利な立場にあるのかを理解したうえで、交渉の対策を立てられるからです。

 まず、一般的に離婚調停では、申立人のほうが不利な立場にあります。仮に相手方が不倫をしていてもです。なぜかと言うと、申立人は離婚調停をまとめたいと考えているからです。たとえ、相手方が悪くても、相手の同意が得られないと、離婚調停は成立しません。要するに、離婚調停の申立人は、離婚を「お願い」している立場なのです。お願いしている側とお願いされている側とでは、当然、お願いしている側のほうが弱い立場にあります。

 では、このような状況において、相手方からバーゲニング・パワーを奪うにはどうすればよいのでしょうか。
 ゲーム理論上の交渉戦術として有効なのは、相手方に対して、「裁判も辞さない」という”脅し”を使うことです。
 もし申立人が、「裁判は絶対にやりたくない、何としても調停で解決したい」という強い方針を持っていて、そのことを相手方が見抜いているとしたら、交渉は相手方のペースです。たとえ、相手方の浮気が離婚の原因になっており、裁判だったら500万円の慰謝料を支払う羽目になるような事案でも、申立人が裁判を嫌がっているのであれば何も恐れることはないからです。相手方が「50万円しか払わない。嫌なら裁判でも何でもやってくれ」と言ってきても、裁判を嫌がっている申立人は、この提案をのまざるを得なくなります。申立人が、このような相手方の提案を拒絶できるのは、裁判というカードを持っている場合に限られます。

 なので、どんなに裁判沙汰が嫌いでも、裁判というカードをちらつかせないと、申立人は交渉上不利な状況から抜け出せなくなるんです。

 どうです交渉もけっこう奥が深いでしょ。私はゲーム理論を大学院で勉強したので、けっこう交渉の駆け引きは得意です。
 今後、このブログで、私の交渉テクニックをたくさん書いていきたいと思います。お楽しみに!