こんにちは。弁護士の長谷川です。
離婚理由の1つに、「性格の不一致」というものがあります。
まあ、「嫌いになったから離婚する」のが普通ですから、通常は、「性格が一致」していることって余り考えられないですよね。「彼はこういうことをした。信じられない!」とか、「こんなことをする女とは暮らしていけない!」等々、通常は、パートナーの性格や行動が自分の常識とはかけ離れていることを声高に叫んで「性格が合わない。」「離婚したい」と言うのが普通ですもん。
ただ、一方が離婚に応じてくれない場合、調停離婚→裁判離婚とステップを進めていかなければ離婚はできません。そして裁判離婚となったら、裁判で離婚が認められるだけの「性格の不一致」と言える為には、「どう調整しても夫婦がぶつからずにやっていくのは無理!」と言えるだけの状態でなければならないわけです。
少し具体例を挙げてみましょうか。
実際に依頼者の方から離婚理由として挙げられる「性格の不一致」として次のようなものがあります。
―――「冷たい」「思いやりがない。」
確かに、優しくない男性と暮らしていくのはしんどいです。というか、優しくない男性と結婚なんかしないよ、と思う女性の方って結構多いと思うんですよね(偏見?)。あ、当然、男性諸氏も、優しくない女性とは暮らしたくないですよね。
だから、結婚した時には優しかったのに、最近パートナーが冷たくなってきた、思いやりがなくなってきたと感じると、愛情も冷めるっていうのは、よく分かります。
でも、「優しい」←→「冷たい」、「思いやりがある」←→「思いやりがない」って、すごく抽象的な言葉ですよね。
そういう抽象的な言葉だけでは、裁判を起こせません。
その為、私達は、必ず、依頼者の方に、「冷たいと思った理由」「思いやりがないと思う行動」についてのエピソード(具体例)を尋ねます。
で、例えば「私が39度の発熱をしている時にも食事を作るように要求された。辛くて断ったら、殴られた」なんていうエピソードが出てくると、確かに社会通念に照らしても「ひどい!思いやりがない!」と判断できるので、離婚理由を根拠づけるエピソードの1つとして挙げられると思います。
でも例えば、「冷蔵庫に入れておいた私の牛乳を勝手に飲んだ。私のものだと分かっていたのに!」なんて言われても、ちょっと困ってしまいます。
・・・うーん、これだけで「思いやりがない」なんて言われても、ちょっと離婚理由には挙げられないよ・・・。
ということで、依頼者の方には「他にエピソードはないですか?」と尋ね、牛乳問題はスルーしてしまいます。
―――「自己中心的」
これもよく出てくる言葉です。結婚生活は共同生活だから、ある程度、相手に合わせるのは当然で、その分、自由が制限されるのはやむをえないところです。(それが嫌だったら、結婚はしない方が無難ですよね、きっと。)
だから、「妻が作った野菜炒めにケチャップをかけて食べようとしたら、『既に塩味が付いているのに、ケチャップをかけるなんて失礼だ!』と怒られた。私の好みを認めてくれないなんて自己中心的だと思う」と言われても、弁護士としては「これって離婚理由?ただの愚痴?」と困ってしまいます。
当然、依頼者の方には「他にエピソードはないですか?」と尋ね、ケチャップ問題はスルーしてしまいます。
でも例えば、奥様が妊娠したのに、夫が「子どもができたら、自分の趣味に使えるお金と時間が減る。自分の趣味にかけるお金と時間の方が大切だから、子どもは堕ろせ」などと言ったらどうでしょう。
こんな「自己中心的」な夫とはやっていけないと思う妻がいても、社会通念上、頷けるのではないでしょうか。
このように、離婚理由になるだけの「性格の不一致」というのは、結構、重い内容が求められています。というか、判例の求める要件を揃えて「性格の不一致」と言える状態にまで持っていくには、婚姻生活で、相当に忍耐していることが必要だと思います。
正直、「浮気」とか「暴力」とか「ギャンブル癖」といったような理由を見つける方が、よほど、離婚するには楽チンです。
しかしそれでも「性格の不一致」を離婚理由としたい方の為に、次回、判例が求める「性格の不一致」の要件を具体的に検討してみましょう。
弁護士 長谷川桃