今回は、親権者の変更について争われた事案をご紹介いたします。親権者変更の判断基準について参考になる事例です(札幌高裁決定昭和61年11月18日)。
事案は、次のとおりです。
X(妻)とY(夫)とが、昭和60年4月26日に長男(当時1歳)の親権者をYとして協議離婚したところ、やはり親権を諦められなかったXが、同年5月20日に親権者変更の調停申立てをし、同年7月17日に調停は不成立となって、審判になりました。
原審は、昭和61年3月26日、Xの申立てを認め、長男の親権者をXに変更しました。
抗告審は、次のとおり判断し、原審判を取り消して、Xの申立てを却下しました。
XY間の「健康状態、性格、愛情、監護養育に対する意欲、経済力など親権者としての適格性」は「それほど優劣の差はな」いものの、長男が昭和60年12月に実家(Y方)に戻ってからは、「祖父母の家において、父、祖父母及び叔母という家族構成の中で、それぞれの人から愛情をもつて大事に育てられ、心身ともに健全に成長して、安定した毎日を過ごしており、その生活環境にも何ら問題はなく、経済面においても祖父母の協力によつて不安のない状態に置かれている」とし、「親権者を変更するかどうかは、専ら親権に服する子の利益及び福祉の増進を主眼として判断すべきところ、まだ満三歳になつたばかりで、その人格形成上重要な発育の段階にある事件本人の養育態勢をみだりに変更するときは、同人を情緒不安定に陥らせるなど、その人格形成上好ましくない悪影響を残すおそれが大きいものと予想されるから」、親権者をYからXに変更することは相当でないと判断しました。
この判断は、親権者としての適性にそれほど優劣差はないとしながらも、子が継続的にY(夫)のもとで円満に過ごせていたことを重要視したもので参考になります。