先週は、この冬一番の冷え込みを記録し、本当に寒かったですね。日毎に天候が変わるそうなので、風邪など引かないようにくれぐれも気をつけて下さいね。

 さて、前回、財産分与と年金分割の違いについて説明しましたが、少し補足します。
 (前回の記事はこちら:離婚時年金分割制度(12)

 財産分与と年金分割制度の関係は、対象を異にする別個の制度です。即ち、財産分与は、夫婦が有する特有財産を一定の要件と手続きによって分与する制度です。他方、年金分割制度は、年金受給権の基礎となる標準報酬を一定の要件と手続きによって分割する制度です。

 次に、按分割合を定めるにあたっての留意事項について解説します。

1 年金見込額照会制度

  50歳以上の方が、情報提供請求の際に希望すると、(1)分割割合上限50%のとき、(2)年金分割を行わないとき、(3)希望する按分割合を定めたとき、の3種類の見込額が通知されます。詳しくは、社会保険事務所等に問い合わせて下さい。

2 実額把握が困難であること

 将来の年金受給の可否や金額の把握、及び財産分与との比較・調整はいずれも事実上不可能です。年金受給の可否や金額については、受給資格の有無や年金制度の改正等によって影響を受けるため、分割割合の決定時に正確に把握することは事実上不可能とされます。

 上述の「年金見込額照会制度」は、あくまでも「見込額」であって、実際に給付される年金額とは異なる場合があります。それ故、年金の保険料納付記録の価値と、財産分与の額を比較し、調整して各々の内容を決めることも事実上不可能ということになります。したがって、財産分与と年金分割とは、各々別個独立して割合を定めることになるのです。

 調停、和解の条項について

1 分割割合を定める条項の記載方法:「申立の趣旨」と同じ

2 精算条項の効力:年金分割請求等に影響しない
 離婚に関する清算条項や、当事者間に債権債務のないことを一般的に確認する清算条項を入れても、年金分割の申立てや社会保険庁等に対する年金分割請求には影響しません。

3 年金分割の審判、調停の申立をしない旨の条項
 合意分割では、このような条項を設けることが出来ますが、3号分割では、分割割合の合意は不要なので、このような条項を入れても年金分割に影響しません。

4 社会保険庁等に対する分割請求をしない旨の条項
  このような条項を入れても、公法上の年金分割請求権を直接制約することはできません。

弁護士 石黒麻利子