「離婚時年金分割制度」の第2回は、離婚時年金分割制度がなぜ作られたのかについて解説したいと思います。

 離婚時年金分割制度の第1回で、基礎年金は夫婦それぞれに支給されるもので、被扶養配偶者は、離婚しても自分自身の基礎年金が受け取れること、そして、基礎年金に上乗せされる被用者年金(厚生年金、共済年金)部分が離婚時年金分割の対象になることをお話しました。

 この被用者年金は、(1)世帯単位で、(2)報酬比例という仕組みをしています。

 まず、(1)世帯単位というのは、夫婦の一方だけが被用者年金に加入している場合、他の一方は、被用者年金を受け取ることができないことから世帯単位での給付になるという意味です。

 次に、(2)報酬比例というのは、被用者年金の保険料及び年金額の決め方が、加入期間の報酬額が多いほど納める保険料の額が多くなり、その分受給する年金額が多くなる(ただし上限があって一定額で頭打ちになります)という意味です。

 このような被用者年金の仕組みのもとでは、離婚した女性に婚姻中の就労期間がないか、就労期間があっても短期間、あるいは低賃金だった場合には、十分な所得水準を確保することができなくなってしまいます。

 例えば、専業主婦だった女性では、国民年金(基礎年金)の権利しかありませんでした。これに対して、元夫の方は、国民年金(基礎年金)の他、被用者年金(報酬比例部分)にさらに企業年金が加わる場合もあるので、年金受給額に男女格差がありました。高齢者の年金受給状況(公的年金、恩給)に関する報告(厚生省の平成10年国民生活基礎調査)によると、男性では200万円~250万円未満が多かったのに対し、女性では40万円~80万円未満だったそうです。

 婚姻中の夫婦が得た給料は、基本的にその夫婦が共同で得たものであり、納付した保険料は夫婦が共同で負担したものですから、このような男女格差は不公平と言わざるを得ません。

 そこで、公平の観点から、平成16年の年金法の改正によって、夫婦が離婚等をした場合に年金分割を可能にするため、離婚時年金分割制度が設けられたというわけです。「離婚時の年金分割」は、平成19年4月1日に施行となっています。

弁護士 石黒麻利子