さて、今回は、請求すべき按分割合(分割割合)を定める基準について解説します。

 条文上、請求すべき按分割合は、「対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情」を考慮して定めるとされています(厚生年金保険法78条の2第2項、国家公務員共済組合法93条の5第2項、地方公務員等共済組合法105条2項、私立学校教職員共済法25条)。

「寄与の程度」とは

 請求すべき按分割合を定めるにあたっては、精算的要素が重視されます。

 家庭裁判所では、「寄与の程度」は、特別の事情がない限り、互いに同等(2分の1ずつ)と見るべきとの理解をしています。

 これは、現行の被用者年金が、その性質及び機能上、夫婦双方(世帯単位)の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有していること、又、婚姻期間中の保険料納付は、互いの協力により各々の老後等のための所得保障を同等に形成していく意義があることから、寄与の程度も、原則として、互いに同等と見るのが相当という考え方によるものです。

 年金分割と財産分与における「寄与」の考え方の違い

1 別居期間

 財産分与は、夫婦が共同して形成した財産の精算の制度ですから、別居時に存在した財産が分与の対象とされます。例えば、退職金の財産分与の場合、別居期間を除いた婚姻期間に対する退職金を分与の対象とする処理をすることがあります。

 これに対し、年金分割では、同居期間に当然に比例して分割割合を定めるわけではありません。年金分割は、夫婦で支払った保険料は、夫婦双方の老後等のための所得保障としての意義を有します。また、3号分割では、同居、別居の期間を問うことなく当然に2分の1ずつに分割されます。そうすると、年金分割では、同居期間に比例して分割割合が決まるのではなく、別居期間があっても、原則は、2分の1とすべきものと考えられます。

 ただし、別居期間が長期に及ぶ場合やそうなった原因は、特別な事情として考慮される可能性があります。

2 夫婦の一方の特殊技能

 財産分与では、夫の特殊技能を理由に、財産形成に対する妻の寄与度が低く認定される場合があります。年金分割では、標準報酬に比例して年金額が定められますが(報酬比例)、報酬に応じて年金額が増えるわけではなく、一定額で頭打ちとなる仕組みになっています。そうすると、夫婦の一方の特殊技能を理由に寄与度に差を付けるのは困難です。

3 特有財産による特殊な財産形成

 不動産の財産分与の場合で、婚姻前から預貯金等の特有財産を頭金にした場合、出資割合を参考にして、2分の1以外の割合で判断することがあります。しかし、年金保険料の場合、給与から支払われるものであり、特有財産による特殊な財産形成がなされたわけではありませんから、特別の事情にはならないと考えられます。

「その他一切の事情」

 分割割合を定めるにあたっては、精算的要素が重視されますが、「その他一切の事情」も考慮されます。たとえば、慰謝料的要素や扶養的要素を考慮することが否定されるわけではありません。

弁護士 石黒麻利子