前回は、有責配偶者からの離婚請求についての裁判例についてお話しました。
 (前回の記事はこちら:有責配偶者からの離婚請求

 前回においてお話ししたように、有責配偶者から離婚請求した場合にその請求が認められるためには、現在までの裁判例から考えると、婚姻期間に対しかなり長期の別居期間が必要とされています。

 ところで、現在の民法は改正される方向にあります。平成8年2月に法制審議会が答申した「民法改正案要綱」によると、裁判上の離婚原因については、積極的破綻主義に基づいて、「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」を離婚原因の一つとしています。積極的破綻主義というのは、婚姻関係が破綻した場合には有責性の有無を問わず離婚を認める立場をいいます。

 この改正案によれば有責配偶者からの離婚請求であっても、5年以上の別居期間があり、夫婦関係が破綻していると認められれば、離婚請求が認められるということになりそうです。別居期間について明確な基準になってくるとすれば、大きな変化であると考えられます。

 もっとも、改正案は、離婚原因があっても、「離婚が配偶者又は子に著しい生活の困窮又は耐え難い苦痛をもたらすとき」や「請求が信義に反すると認められるとき」には、離婚請求を棄却できることとされています。この条項は、現在の判例の基準として取り入れられている、未成熟の子がいないこと、相手方配偶者にとって離婚により精神的・社会的・経済的に過酷な状態におかれないこと、という基準にそったものであると考えられます。

 離婚事件の相談では、有責配偶者からの離婚請求以外にも、決定的な離婚原因はないけれども、離婚を望んでいて、夫婦が不仲となって別居をしているような場合にしばしば出会います。このようなとき、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無を考える上で別居期間というものが重要な考慮要素となってきます。そのようなときには、別居期間の長さと離婚原因についてはいつも考えさせられるものです。