今回は、有責配偶者からの離婚請求という有名な論点に関するお話です。
いわゆる有責配偶者というのは、不貞等によって自ら離婚原因を作った責任のある配偶者をいいます。このような配偶者からの離婚請求には、一方的に離婚原因を作っておきながら離婚請求が認められると、相手方配偶者にあまりに酷であり、信義誠実に反するのではないかという問題があるのです。
有責配偶者からの離婚請求が認められる基準は、最高裁判例で確立されています。その基準は?別居が年齢及び同居期間との対比において相当長期であること、未成熟の子がいないこと、相手方配偶者にとって離婚により精神的・社会的・経済的に過酷な状態におかれないこととされています。(最判昭和62年9月2日判時1243・3)
この基準をすべてみたすのはなかなか厳しいようです。裁判例でも、別居期間が約9年に対して同居期間が約21年に及ぶこと等を考えると別居期間が相当の長期間に及ぶとはいえないとされたものや、別居期間は相当の長期間に及ぶとしても未成熟子がいて離婚請求が棄却されたもの等たくさんの棄却事例があります。
今回は、不貞に加え不貞相手との間に子供まで産まれた有責配偶者からの離婚請求を扱った裁判例(福岡高裁那覇支部平成15年7月31日判タ1162・245)を紹介します。
この裁判例は、有責配偶者からの離婚請求が一度棄却されたものの、棄却の判決が確定してから約1カ月後にその有責配偶者が離婚調停を申し立て、調停に引き続き再度離婚訴訟を提起した結果、離婚請求が認められたものです。2回目の離婚請求は1回目の時とは事情の変更があったとして提起されました。
この裁判例において1回目の離婚請求が認められなかった理由は、相手方配偶者の精神的苦痛が極めて大きいのに、慰謝料の支払いについての具体的で誠意のある提案がないこと、未成熟子2人が成長のために父親を最も必要とする年代にあるため、子らへの影響が大きいことにありました。
2回目の離婚請求においては、新たに1回目の判決後に年額420万円の養育費及び300万円の慰謝料を支払ったこと等が主張され、それらの養育費や慰謝料の支払いに加え、別居期間が婚姻期間13年間のうち9年1か月に及んでいることは相当長期に及んでいること、相手方配偶者及び子供をマンションに無償で居住することを認めている等経済的支援が十分であること等が考慮されて離婚請求が認められました。
この裁判例からも、有責配偶者からの離婚請求の場合には、まず長期の別居期間があることが必要であるのに加え、相手方配偶者や子供に対する十分な手当や配慮が必要であることが伺えます。