皆様、こんにちは。
1 イントロ
不貞行為に対する慰謝料請求は、婚姻関係の破綻後に不貞行為がなされたという認定を受けなければ大抵の場合は認められると言われております。
おそらくレアケースですが、破綻の有無に関係なく不貞相手に対する慰謝料請求を否定した最高裁判決をご紹介し、不貞相手に対する慰謝料請求の論点について若干言及してみたいと思います。
2 事案の概要
夫と不貞行為があった女性に対して、妻が慰謝料を請求したという事案です。
元々、本件の当事者である夫婦が通っていた居酒屋経営者である女性(以下「乙」といいます。)が不貞相手となりました。妻(以下「甲」といいます。)が自分の夫(以下「丙」といいます。)の女性関係が酷いと乙の店で愚痴をこぼし、離婚する予定であると話していました。その後間もなく、丙が乙の店に通うようになり、真剣に交際したいということ、甲と別れるつもりであることを伝え、やがて乙と丙は交際するようになりました。
ところが、乙と丙の交際の事実が甲に発覚し、甲は乙に対して慰謝料として500万円を請求し、丙にも養育費や慰謝料を払って欲しいと主張しました。これを受けて、丙は乙に慰謝料を支払うように求めるようになり、乙が支払いを拒むと度々暴行に及びました。
第1審は甲の慰謝料請求を認めませんでしたが、控訴審は丙からの暴力や脅迫は拒めないほどものではないと評価して甲の慰謝料請求を認めました。
最高裁では上記1に記載のとおり甲の請求を認めませんでした(最高裁第三小法廷平成8年6月18日判決)。理由は次のとおりです。
甲が乙に対して丙との夫婦仲が冷めていると話したことが不貞行為の原因となっており、丙が乙に対して暴力を用いて慰謝料の支払いを要求していることを利用して訴訟提起に至った経緯を踏まえると、甲の慰謝料請求は信義則に反し権利の濫用であると評価できるため、慰謝料請求は許されない
とのことです。
裁判所では明確に認定はしていませんが、甲と丙が不貞行為を誘発させたのではないかとも思える事案です。形式上は不貞行為そのものがあったことは明らかですが、甲が丙の乙に対する暴行脅迫に便乗して、乙の店を訪れて嫌がらせ的に慰謝料の請求をしていた事実等が最高裁に重く捉えられたのではないかと思われます。
3 最後に
さて、夫婦の一方が不貞を行った場合に、不貞相手に対して慰謝料請求ができるということは、これまで当法人のブログをご覧になられた方にとっては所与の前提のように思えるかもしれません。ただし、婚姻関係破綻後の不貞行為は慰謝料が減額されるあるいは請求そのものが否定される可能性があることもまたご存じだと思います。
ところが、学者の間ではさらに慎重論があるようで、慰謝料請求自体の否定説も主張されているようです(家族法判例百選第4版23頁参照)。不貞行為による一方配偶者に対する権利侵害は夫婦間の貞操義務がポイントとなるところ、そもそも貞操義務のような極めて私的な事項については法の介入を控えるべきであること、現状では配偶者を許して不貞相手だけに慰謝料請求をすることも可能ですが、それでは美人局やそれに類似した恐喝行為等の温床となりうることが理由として挙げられているようです。
確かに、裁判所の傾向として不貞相手に対する慰謝料請求に消極的になれば、一つの抑止力になりうるでしょう。しかし、いくら夫婦仲が冷めてきたといえども、配偶者の不貞行為でダメを押されたという方(話を聞いているとそのような気持ちの変化が滲み出てくる感じです。)は少なからずいらっしゃいます。特に女性(妻)側は夫に対する思いが複雑なようで、矛先は不貞相手の女性に向かう傾向にある気がします。
そもそも、裁判所は各事案毎に事実認定を行い、請求の当否や請求額を決める立場にあるので、さらに理論的に突き詰めていくよりは裁判所での審理を通じてフィルタリングを図ってもらうのが在り方としては適切ではないかと思います。
なお、本人間で交渉して慰謝料を払ってもらうこともできますが、相手方に対する発言内容や話し合いの状況には注意しましょう。丁寧に相手との会話を録音していても、脅迫の証拠になっては目も当てられませんしね。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。