皆様、こんにちは。

1 イントロ

 これまでのブログ記事で、配偶者の不貞行為が離婚原因(裁判を起こした時に裁判所が離婚を認める事由)にあたることは再三説明されてきたかと存じます。

 他方で、夫婦間の性的関係も不和が生じれば離婚原因となりえます。今回も裁判例をご紹介しながらみていきたいと思います。

2 性的不能の場合

 婚姻後約3年半の同居期間の中で、一度も性交渉が行われなかった夫婦の事例です。

 妻は子供が出来ない等の身体の異常はなく、夫も器質的には異常はないものの、病院の診断やカウンセリング等も受けていたことから、どうやら夫が性的不能であると裁判所から推認されました。

 裁判所は「婚姻が男女の精神的・肉体的結合であり、そこにおける性関係の重要性を鑑みれば、病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の合意があるような特段の事情が存在しない限り、婚姻後長年にわたり性交渉のないことは原則として婚姻継続しがたい重大な事由にあたる」と判断して離婚を認めました(京都地裁昭和62年5月12日判決)。

 しかも、上記判決では、夫の性的不能は子供を産むことができないことを意味し、その旨が告知されれば婚姻に至らない選択もありうることから、性的不能の不告知は信義則(民法1条2項)に違反して違法であり、夫は妻が受けた精神的苦痛に対して慰謝料を支払うべきであると判断されました(200万円の限度で認められました。)。

3 性交渉の拒否

 (1)婚姻後、一切あるいはほとんど性交渉がなされなかったケースです。

 一つは、婚姻後夫が一切性交渉に応じませんでした。挙式のためにフランスへ旅客機に乗った際に、妻から生理が始まったことと、精神安定剤を服用したことを聞かされて、出端をくじかれた、無理強いできない、薬物の服用によって奇形児が産まれるのではないかといった理由をつけて性交渉に応じなかったようです。

 しかしながら、その後妻が実家に帰るまで性交渉には至りませんでした。

 裁判所は、性交渉に応じなかった夫の説明が納得のいくものでななく、結婚生活を真面目に考えているとは思えないと評価し、妻はこのような夫の行動によって離婚に気持ちが傾いていった(婚姻関係の破綻に至った)ととらえ、夫に500万円の慰謝料を認める判決を下しました(京都地裁平成2年6月14日判決)。

 (2)もう一つは、入籍後5ヶ月間に2、3回程度の性交渉があったものの、その後は全く性的関係はなく、しかも夫はポルノビデオを見て自慰行為をしていたという事案です。妻は性交渉が持たれないことについて夫に不満を漏らしたところ、夫は「女は子宮でしか物を考えられないのか。」と言い、改善されることはありませんでした。

 裁判所は、正常な夫婦の性生活からすると異常であると評価し、夫に改善の兆しがないこと、妻が夫に対する愛情を喪失してしまっていることから、婚姻関係の破綻を認めました(福岡高裁平成5年3月18日判決)。

4 最後に

 (1)性的不能であることは出産を望む女性にとって非常に重大な事実であると評価されていることがうかがわれます。話を切り出しづらいという男性側の気持ちもわかりますが、女性側にしてみれば言ってもらわなければわからないことですので、裁判所の評価が過大ということはないでしょう。

 (2)他方で性交渉に応じないことは、出産ができないこともさることながら、夫婦間のコミュニケーション拒否の要素が強いように思われます(というのは、上記の裁判例のうち、性交渉があった例では出産自体はできたからです。)。夫婦としてうまくいってないから自然と性交渉もなくなっていったというところでしょうか。

 上記の裁判例が出ていた頃に比べ、今の人々は夜の仕事時間、外出時間が長く、なかなか夫婦水入らずの時間を持つのは難しい状況となっているのではないでしょうか。だからといって、離婚が直ちに認められるのではなく、例えば、どちらかが意図的に夫婦すれ違いの状況を作出しているのか、それともやむなくそうなっているのか、事情を細かに見ていく必要性が高まっているように感じます。

 (3)ちなみに、先日「初夜」(新潮クレスト・ブックス、イアン・マキューアン(著)、村松潔(訳))という、新婚初夜の性交渉に失敗して別れることになった若き夫婦の小説を読みました。1960年代のイギリスという今より奥ゆかしげな時代設定の中、男女の細かな心情の機微と些細なすれ違いがやがて(といってもその日のうちにですが)大きな破綻へとつながっていきます。ネタばらしは出来ませんが、読後、フィクションとはいえやはり事前に相談することが重要であると感じました。もっとも、現実の夫婦はどうやら頭で解決できるほど単純ではないようです。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。