こんにちは。今回は企業が労働者の配置転換をする際の留意点についてご説明いたします。
たとえば、バスやタクシーの運転手として雇用された人がいるとします。
運転手という職業には腰痛がつきものといわれています。腰痛はその程度がさまざまであり、なかには腰痛が悪化して、運転手としての勤務が難しくなるケースも存在します。
そこで、会社としては、腰痛を患った運転手を内勤の事務職等に配置転換できないか、と考えるかもしれません。
しかし、運転手として限定して採用された労働者のように、労働者の職種又は勤務場所が限定される場合には、個別の合意がなければ配置転換できないとするのが裁判所の考え方です。
では、運転手として職務遂行が行えなくなった者を、本人の同意なくして全く配置転換できないのでしょうか。
職務が行えない以上、本人の同意なくして配置転換ができないとなれば、残る道は解雇か、会社が不利益を被って雇用を続けるしかありません。
この点、裁判例の中には、アナウンサーとして雇用された者について、就業規則に業務の都合により職種の変更を命ずることがある旨の定めがある場合で、業務上の必要があれば職務内容を変更できるとしたもの(宮崎地裁昭和51年8月20日判決)や、臨床検査技師等として雇用された者たちについて、経営上の合理的理由に基づき一定の部署・職種を廃止する必要があり、これによって生ずる余剰人員の解雇を避けるための配転命令に関し有効としたもの(福岡地裁昭和58年2月24日決定)があります。
また、一方で、クレーン運転手として雇用され、長年勤務した者について、職務能力に欠けるとして事務員に配置転換した事例では、賃金が大幅に減額されたことから、配置転換が無効とも判断されています(大阪地裁平成11年1月12日決定)。
以上からすれば、腰痛を患ったことにより運転手として勤務できない従業員に関しては、本人の同意なくして配置転換することは原則として難しいと考えられますが、例えば解雇を避けるためであって、大幅に賃金等が減額されなければ、個別の合意がなくとも配置転換が認められる可能性があります。
もっとも、配置転換に関しては個別の事情を吟味した上で決定すべきですので、具体的にご検討の際は弁護士等の専門家に相談する必要があると思われますので留意して下さい。