迷惑行為続けば説明義務有り 契約解除は警告を重ねて慎重に

相談内容

 隣室の賃借人同士でトラブルがあり、周囲の賃借人から、トラブルを解決するように賃貸人へクレームがありました。当事者の一方からは、前からこのような隣人が住んでいるのなら、従前からもトラブルを繰り返していたに決まっているが、なぜあらかじめ知らせてくれなかったのかというクレームもあります。賃貸人としての責任や取るべき対応を教えてください。

回答

 ご近所トラブルというものは、いつもどこかで生じており、快適な生活ができない場合もあります。とはいえ、賃貸人にとってみれば、当事者同士で解決してくれない限りは、口出ししてもうまくいくとは限らないため、介入することには躊躇(ちゅうちょ)しがちだと思います。

 そこで、賃貸人として、このような場合にいかなる責任を負うおそれがあるのか、それを回避するためにどのようにすべきか検討してみようと思います。

 まず、居住前から、トラブルを起こすような賃借人が居住しているということを知らせておく義務、つまり契約締結前の説明義務が認められるのでしょうか。これが認められることになれば、快適な住環境を維持できていない賃借人からは、精神的苦痛に対応する損害賠償請求が認められることになります。例えば、いわゆる事故物件などにおいては、居住前に事故があったことについては、心理的瑕疵(かし)に該当し、これをあらかじめ説明する義務があり、説明義務違反に対しては損害賠償責任が生じます。「こういった隣人トラブルが発生しており、平穏な住環境が害されるようなことをあらかじめ知っている又は容易に知り得る場合」には、説明義務が生じると考えられています。そのため、今回の近隣トラブルが初めてであるのか、それとも、従前からトラブルメーカーだったのかによっても、説明義務の有無は変わることになります。

 次に、トラブル発生後に賃貸人としてどういった対応が必要かです。

 賃貸人は、貸した居住用の物件についても、平穏な環境で居住させる義務がありますので、例えば、悪臭や騒音、振動などが生じているのであれば、その要因を排除していく必要があります。要因を排除できない場合には、賃借人から債務不履行に基づく損害賠償請求を受けるおそれがあります。しかしながら、賃借人同士のトラブルについては、賃貸人がどのような形で介入していくのか判断が難しいかもしれません。

 過去の裁判例では、居住者間のトラブルにおいて、一方の当事者が怒鳴り、暴力をふるうなどの行為を繰り返していたような事例について、契約を解除して、明け渡しを求めなかったことが債務不履行であり、損害賠償責任を生じさせると判断されています。

 この過去の裁判例からは、近隣への迷惑行為が、賃貸借契約の解除の原因になることが前提とされています。とはいえ、賃貸借契約を解除するためには、信頼関係の破壊がなければならず、容易に解除が実現できるわけではありません。また、解除に至らずとも、トラブルを解決する方向性での介入を実施することで、解決する場合もあります。したがって、当事者間でのトラブルが生じたことを認識した場合は、今後は、同様のトラブルを起こさないように警告を実施し、その後のトラブルの推移を見守りつつ、いずれの賃借人がトラブルの原因となっており、賃貸借契約を解除する対象とすべきか見極めていくべきでしょう。

 迷惑行為に基づく賃貸借契約の解除にあたっては、改善される見込みがないことは非常に重要と考えられますので、警告の回数を重ねつつ、改善しない態度が継続していることは記録に残しておき、改善の余地がないと感じられた場合には、法的手続きをとったうえで、明け渡しを請求していく必要があるでしょう。