前回のブログでは、懲戒事由についてご説明しましたので、今回は、労働者に対する制裁として、どのような懲戒処分が考えられるかをご説明したいと思います。

 就業規則等で挙げられることが多い、主な懲戒処分の種類は以下のものがあります。

(1) 懲戒解雇

 最も重い処分として定められ、解雇予告及び解雇予告手当の支給もなく、即時に行われ、退職金も全部不支給とされることが多い処分です。

 但し、懲戒解雇に伴って退職金を不支給とするためには、懲戒解雇の根拠とは別にその旨の定めが退職金規程(就業規則)等に定められていなければなりません。

 また、懲戒解雇と退職金の不支給は、1度にまとめて行われますが、その具体的な内容は異なる処分であるため、それぞれの有効性が別々に判断されます。したがって、懲戒解雇は有効ですが、退職金の不支給は無効であるという判断(場合によってはその逆の判断)もなされる場合があります。

(2) 諭旨解雇

 懲戒解雇の次に重い処分とされ、退職願又は辞表の提出を勧告して、即時の退職を求めることです。諭旨解雇に応じた場合には、退職金の一部支給や全部支給が行われることが多いですが、諭旨解雇を断った場合には、懲戒解雇処分とする例もあります。

(3) 出勤停止・停職・懲戒休職・自宅謹慎

 労働契約を存続させながら労働者の就業を一定期間禁止する処分であり、使用者は、出勤停止等の期間中は賃金を支払う必要がありません。

 この懲戒処分に類似する命令として、自宅待機命令という命令があります。自宅待機命令は、職場規律違反等を行った労働者の処分を決定するまでの間、就労を禁止する命令であり、使用者の判断によって、労務の提供を拒んでいる状態ですので、賃金を支払う必要があります。また、自宅待機命令は、労働者の処分を決定するまでの間のみ許される命令ですので、不当に長期にわたることなく、懲戒処分を行うか否か、懲戒処分を行う場合は、懲戒処分の具体的な内容を決定しなければなりません。

(4) 降格(降職)

 降格処分とは、役職・職位・職能資格などを引き下げる処分であり、通常役職のみを引き下げるとともに、給料も下げられることになることが多いでしょう。但し、基本給の引き下げ等を伴う場合は、原則として労働者の同意が必要であり、同意のない場合には、就業規則に明確かつ合理的な定めが必要と考えられています。

(5) 減給

 減給処分とは、労働者が「現実になした労務提供」に対応して受け取るべき賃金額から一定額を差し引くことをいいます。また、労働基準法91条前段は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならないと定められ、同条後段は、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないとも定めており、減給処分の限度は厳しく定められています。

 したがって、労働者が現実になした労務提供があるにもかかわらず、給与を引き下げることは容易ではありません。

 また、減給処分と似て非なるものとして、労務の不提供(欠勤、遅刻、早退)を理由として、賃金をカットすることがあります。この場合、労働者は労務提供を現実に行っていないのですから、賃金請求権が発生しないと考えられます。また、労働時間に勤務していないことに限らず、例えば、賃金の定めが製品の量や質に応じて定められている場合、不良品の生産分に応じて賃金減額することは賃金の計算方法に過ぎないとして、賃金のカットとして許容される可能性があります。

 しかし、現在の労働契約においては、労働時間の定めや給料の定め方は様々であり、必ずしも、労働時間が短いことや成果が出せていないことが賃金のカットの理由になるわけではありません。

 結局のところ、賃金のカットとして許容されるか、減給処分として、懲戒事由の該当性等が要求されるか否かは、当初に交わした労働契約の内容及び就業規則や賃金規程等の定めによって結論が左右されるものであるため、賃金カットができるか否かについては、ケースバイケースの判断とならざるを得ません。

(6) 譴責・戒告

 多くの就業規則では、譴責とは、始末書を提出させて将来を戒めることであり、戒告とは、始末書を提出させることなく将来を戒めること、とされています。

 譴責や戒告は、人事考課や昇格等に不利に考慮されることがあり、何度か重なった場合はより重い懲戒処分が行われるものと明記して行われることが通常でしょう。

懲戒権の限界

 労働契約法第15条は、「使用者が、労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。」と定めており、懲戒処分は社会通念上相当と認められなければ、無効になるおそれがあります。

 社会通念上の相当性の判断においては、懲戒処分に該当する行為と処分の重さが釣り合っていることに加え、適正な手続を行ったか否か(例:本人に弁明の機会を与えることなど)という、実体的な観点及び手続的な観点の両者が考慮されますので、懲戒該当事由に該当すると判断されたとしても、適正な手続を踏んで懲戒処分に望む必要がありそうです。

以上