こんにちは。
 読者の皆様は、ゴールデンウィークをどのようにお過ごしになったでしょうか。天気も良かったし、遠くまでドライブ、という方も多かったかもしれませんね。

 さて、本日は、そんな時に活躍する車に絡んだお話です。
 皆様の乗っていらっしゃる車の中には、所有権留保付きの車もあると思います。この所有権留保とは、自動車ローンを支払い終えるまで、自動車のディーラーなどに所有権が留められ、ローンを支払い終えた場合は所有権を買主に移転することができるけれど、ローンが支払われない場合は所有権を留めておいたディーラーなどが車を引き上げることができるというものです。

 では、もし、ローンを支払い終えないうちに買主が破産してしまったら、ディーラーなどの所有権を留保していた者(以下、「所有権留保債権者」といいます。)はどのようなことをすることができるしょうか。①所有権は所有権留保債権者にあると考えるか、それとも、②所有権留保はあくまでローンが支払われない時のための担保であって実質的な所有権は買ったときから買主(以下、「破産者」といいます。)に移転していると考えるかによって、買主が破産した場合の取扱は異なってきます。

 まず、①だと考えると、破産手続開始の時に、車は破産者の財産ではなく所有権留保債権者の財産だということになります。破産手続は、破産者の債権者(以下、「破産債権者」といいます。)に対して破産者の所有していた財産を分配する手続ですが、この場合、車は破産者の所有する財産ではないので分配の対象とはならないことになります。そして、所有権留保債権者は車について「取戻権」という権利を行使することが考えられます。取戻権とは、破産手続開始前から第三者が破産者に対してある財産を自己に引き渡すことを求める権利を持っている場合には、破産手続き開始後も第三者はその権利を主張して財産の引き渡しを求めることができるという権利です。

 これに対して、②だと考えると、破産者の破産手続開始の時に、車は破産者の財産となっていることになります。ですから、所有権留保債権者は所有権に基づく権利を行使することはできません。そこで、所有権留保債権者は、「別除権」という権利を行使することが考えられます。別除権とは、破産債権者が、破産者の財産のうち破産債権者が担保権を有していた特定の財産から、破産手続によらずに優先的に弁済を受けることができる権利です。 これら①と②のどちらの考え方をすべきかが争われた次のような事案があります。

札幌高裁昭和61年3月26日決定

事案

 Aは、信販会社Xを利用してローンで車を買いました(Xが立替払いをすることになります)。この車には、Bに所有権が留保される所有権留保特約がついていました。Xが立替払いをしたところ、そのローンを支払い終えない内に、Aは破産手続を開始することになりました。
 そこで、Xは、立替払いによって、Bに代位した(車の所有者としての地位をBから受け継いだ)のだから、自分には所有権があると主張して、取戻権に基づいて車の引渡しを求める仮処分命令の申立てをしました。

決定

 Xは取戻権を行使できない。

 この決定は、②の考え方、つまり、所有権留保債権者が車の所有権留保に基づいて権利を行使する場合、別除権を行使することになるという結論に至ったものです。

 取戻権と別除権との違いは、所有権留保債権者が所有権留保していた財産の実際の価値が所有権留保で担保されていた残債権額よりも大きい場合に明らかになります。例えば、残債権額が100万円、車の現在価値が200万円の場合、取戻権を行使できれば200万円の価値のある車そのものを取戻すことができますが、前出の決定に従えば所有権留保債権者は別除権しか行使できないので、車から残債権額の100万円を回収できるだけ(残り100万円は、他の債権者に配当される財産となります。)ということになると考えられます。