前回(2010年3月2日)、破産処理における双務契約の扱いについて、請負契約の注文者が破産した場合にどうなるか、少しお話させていただきました。
今回は、請負契約の請負人が破産した場合にどうなるか、お話させていただきたいと思います。

 前回お話したとおり、請負契約の注文者破産の場合には破産法53条(双務契約において破産者又はその相手方が債務を履行していない場合は、破産管財人は、契約解除又は契約の履行を選択できるという趣旨の条文)の特則として民法642条が規定されています。しかし、請負人破産の場合にはそのような規定はありません。
そのため、請負契約において請負人が破産した場合に破産法53条が適用されるか否かは争いがありました。
この点について判断を示したのが最高裁昭和62年11月26日判決(民集41巻8号1585頁)です。昭和62年判決は、請負人の破産の場合、原則どおり破産法53条が適用されるけれども、その適用範囲を一定範囲に制限されると判断しました。

 最高裁昭和62年11月26日判決(民集41巻8号1585頁)は、建物建築工事を請け負った会社が工事途中で破産したため、注文者が契約解除を前提に、前渡ししていた報酬金から工事出来高を除いた額返してもらうため、財団債権として請求した事案です。
 昭和62年判決は、請け負った仕事の中身が破産者以外の者では完成できない性質の場合、すなわち、非代替的作為債務の場合でなければ、破産法53条が適用される旨判示しました。

 請け負った仕事の中身が代替的な場合であれば、個人的な労働の提供という側面がないため、請負契約も一つの財産関係として管財人に引き継がれ、管財人が処理することが可能です。
 しかし、非代替的作為債務の場合には、請負人の個人的な労務の提供という色彩が強く、一つの財産関係として管財人が引き継いで処理することができません。
 そのため、非代替的作為債務の場合には、破産法53条は適用されず、その契約関係は破産財団に吸収されないので、注文者と請負人との関係として残ることになります。

 このように破産手続外で契約関係が残る場合、注文者としては、仕事は未完成のままであり前払いしていた報酬も事実上請負人(破産者から)回収できないという不利益を被るおそれがあります。他方、請負人としては、仕事が残り、生活の糧とできるというメリットがありそうです。

 また、昭和62年判決の事案においては、判決は、請負契約の解除を前提に、未だ仕事がなされていなかった部分の前払金返還請求権について、財団債権として(破産法54条2項)優先弁済の効力を認めました。
これは、破産管財人が履行選択をした場合に相手方の請求権を財団債権として相手方を保護していることとの均衡を図ったものと解されます。

以 上