こんにちは。長谷川です。

いよいよ11月も終わりです。
あと1月頑張って、良い年末を迎えたいですね。。。(年寄りくさい?)

では、前回からのお話しの続きです。
大使館を信じて取引したら、債務不履行をされた挙げ句に、裁判も起こせないなんていう不合理な事態に陥った場合、何か、解決策はないのでしょうか。
特に、絶対免除主義との関係はどう考えたら良いのでしょうか?

この点についての適切な事案が、最高裁平成18年7月21日判決の事案です。

これは、日本の会社が外国との間でコンピューターの売買契約を締結したところ、外国政府がお金を払ってくれなかったという事案です。この外国は、日本の民事裁判権に服することを免除されるという絶対免除主義を主張して、裁判の却下を求めました。

でも、最高裁は、

① 外国国家は、主権的行為以外の私法的ないし業務管理的な行為については、我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り、我が国の民事裁判権に服することを免除されない。

② 外国国家の行為が、その性質上、私人でも行うことが可能な商業取引である場合には、その行為は、目的のいかんにかかわらず、外国国家が我が国の民事裁判権に服することを特段の事情がない限り免除されない私法的ないし業務管理的な行為に当たる。

③ 外国国家は、私人との間の書面による契約に含まれた明文の規定により当該契約から生じた紛争について我が国の民事裁判権に服することを約することによって、我が国の民事裁判権に服する旨の意思を明確に表明した場合には、原則として、当該紛争について我が国の民事裁判権に服することを免除されない。

と判断しました。

要するに、一般民間人でもやっているような私法行為については、外国政府だって日本の裁判権が及ぶんだよと判示したわけです。(制限免除主義)

これで安心して商売ができるということになりますよね。

普通にこの事案を考えたら(特に、自分がこの事案を法律相談受けたとしたら)、外国政府相手の裁判なんて勝てるの?って考えてしまうと思います。多分お客様も、泣き寝入りするしかないんじゃないの?って思ってしまう方が圧倒的だと思います。

でもこの裁判は、1審2審を覆し、最高裁では原告が勝っているわけです。

特にこの事案で注目して欲しいのは、③です。この事案では、契約書をきちんと締結していて、しかもそこに管轄合意条項が入っていたと思われます。
我々が契約書を作成するときには、必ず入れる条項ではあるのですが、それが、外国政府相手の訴訟でも勝利につながる重要なポイントの1つになっているわけです。
こういった些細な、しかし密で丁寧な取引きが、「泣き寝入りか?」と思われるような紛争でも、結果的に会社を守るポイントになるんですよね。

で、長々と原則論を述べてしまいましたが、前回の冒頭に戻ります。

こういった原則論や最高裁の判旨を踏まえてできたのが、「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」です。解釈論であったところを、法律で明定したというわけです。
来年の4月までには施行になりますので、もし、皆さんの会社が外国政府とか大使館とかと取引をするようなことがあれば、是非1度目を通しておき、契約書にも必要な事項を盛り込むようにして下さいね。

おしまい。

弁護士 長谷川 桃