1.修習生の給費制廃止と日弁連の動向
これまで司法修習生に対しては、国家公務員に準じて給与が支払われるという「給費制」が取られていましたが、新64期司法修習生から給与が支給されなくなるそうです。
これに対して、弁護士や修習生から不満の声があがっているとか…。
そこで、日弁連は、4月15日、給費制の維持を訴えるための緊急対策本部の設置を決めたそうです(毎日新聞2010年4月16日朝刊25面)。
そもそも、給費制が廃止される背景には、合格者とそれに伴う司法修習生の数の急増があります。司法修習生の給与は言うまでもなく国民の税金から支払われていたわけですが、司法試験合格者が少なかった昔は、給費制が何とか機能していました。しかし、今日のように、年間合格者が2000人を超えるようになると、毎年、2000人以上の司法修習生が誕生します。この修習生全員を養っていくためには、予算を増やしてもらう必要がありますが、財務省が首を縦に振らない…。そうすると、現状の予算では、給費制がワークしなくなるわけです。
では、給費制が廃止された場合、司法修習生はどうやって食べていけばいいのでしょうか…。
そこで、給費制に代わって導入されるのが「貸与制」です。修習中の間、国が司法修習生に無利子で貸し付ける、そして、弁護士になってから5年~10年で返済するという仕組みです。
2.司法修習生は借金地獄か?
そもそも、ロー・スクール制度が導入される際に、「お金持ちしか法曹になれないのではないか」という問題提起がありました。ロー・スクールに通うのに、高額な学費がかかるからです。実際、多くの司法修習生が、新司法試験合格までの間に奨学金を借りているという実態があるそうです。
そのうえ、司法修習生になってからも、貸与制でさらに借金が膨らんでしまう…。ますます、法曹への道は閉ざされ、「お金持ち」しか弁護士等になれなくなってしまう…。まあ、この辺りが日弁連が指摘したい問題提起のようです。
この4月に日弁連会長に就任した宇都宮弁護士も、「貸与制になれば負担が増大し、貧乏人は法曹の道をあきらめなければいけなくなる」と指摘されているそうです(前掲毎日新聞)。
確かに、給与が支給されていた時代の修習生に比べれば、気の毒だとは思います。
しかし、「貧乏人は法曹への道をあきらめなければいけなくなる」というのは、かなりの論理の飛躍があります。そもそも、貧乏人にも道を開くのが「奨学金」です。今回導入される貸与制は、無利子で長期返済が予定されていることから、苦学生に支給される奨学金と何ら変わりません。金融の世界の常識から考えれば、無利子で長期返済なんてあり得ません。長期であればリスク・プレミアムが上乗せされるので高金利になるのが常識です。
むしろ、旧司法試験時代のほうが「お金持ちでないと法曹になるのが難しい」という実態がありました。旧司法試験の合格率は2%~3%で、合格者の平均受験回数は、6回~7回でした。私の周りには10回以上受験して合格した人も珍しくはありませんでした。
では、そのような著しく長期に及ぶ受験生活をどのようにして維持してきたのでしょうか。多くの「専業受験生」(仕事をせずに受験勉強に専念している受験生)は親からの仕送りで資金調達していたんです。6~7年(場合によっては10年以上)も、受験生活を維持するための仕送りができる家庭でないと、受験生活の維持は困難だったんです。
私の場合は、親からの経済的援助が得られなかったために大変苦労しました。当然働きながら受験生活を送りました。しかし、仕事をしながら片手間で合格できるほど、当時の司法試験は甘くはありませんでした。したがって、仕事の量も最小限にしないと合格は、遠のきます。なので、大学を卒業しているのにアルバイト的なことしかできませんでた。当然薄給です。そこで、生活費と受験にかかる費用(専門書の購入、予備校の受講料)を捻出するために最終的に私が取った方法は、サラ金からの借入です。
受験生時代の私は、家賃3万円、風呂なしのぼろアパートに住んでいました。私は酒も飲まないし、ギャンブルもやりません(宝くじさえ買ったことがないんです)。それなのに、サラ金に手を出さざるを得ない状況に追い込まれていたんです。やがて、返済のための借入となっていきました。完全に多重債務者です。これ以上行ったら破産しかないという時に何とか合格!お陰で債務整理を免れ、真面目に返済していた私は、合格を機に、過払いも請求してやりました(笑)。もう少し合格に時間がかかったら、最悪破産していたところまで追い込まれていたわけです。
さて、ロースクール制度が始まり、多くの司法修習生が奨学金を借りているというけれど、果たしてどれだけの修習生が「サラ金」から借金しているでしょうか?大学院生に対しては奨学金という制度がありますけど、大学卒業後の司法浪人生にお金を貸してくれる奨学金制度なんて存在しませんよ。今回検討されている貸与制も無利子で、しかも返済は弁護士になってからですよね。おまけに5~10年という長期返済プラン。サラ金から借りることに比べれば天国ですよ。
私のケースは例外という議論もあるかもしれませんが、仮に例外だとすると、まさに旧司法試験時代はお金持ちの家庭のご子息でないと法曹になれないということの証左です。サラ金に手を出す受験生が少なかったのは、親からの仕送りがあったからです!
現在の新司法試験制度では奨学金制度も準備されているうえに、ほとんどの司法修習生が一発合格です。合格までに長期間かかった旧司法試験時代では、就職せずに受験生活によって失った逸失利益も膨大ですよ。多くの受験生は一流大学の法学部出身者ですから、就職していればかなり稼いでいるはずです。
それに比べると、今の司法修習生のほうが負担増というのには、直ちに賛同できません。