1 テレビCMと地方の弁護士

 今、テレビCMをやっている東京の法律事務所に対して、地方の弁護士会から批判が集まっているという噂を耳にしました。

 どこで耳にした噂かというと、弁護士会で耳にしたので、信憑性の高い噂です。具体的には、東京の法律事務所のテレビCMに対して、地方の各弁護士会から東京弁護士会等に取り締まりの要請が来ているそうなんです。もちろん、非公式な要請だとは思いますが、東京弁護士会等に対して対応してほしいということのようです。

 私は、法律事務所の経営者としてテレビCMの活用に対しては極めて消極的です。特に、企業の仕事が多いうちの事務所にとっては、有効なブランド戦略だという気がしません。

 でも、他の法律事務所がテレビCMを利用することに対しては寛容です。別に違法なことをしているわけではないし、テレビCMが弁護士倫理上問題があるわけでもありません。広告活動が弁護士としての品位を害するかどうかは、基本的に広告の内容であって媒体ではないからです。もっとも、インターネット上のエロサイトを広告媒体に使用すれば弁護士倫理上問題がありそうですが、まさかテレビCMが即座に弁護士の品位を害するとは言えないでしょう。

 それなのに、地方の弁護士会が東京の法律事務所のテレビCMを規制したいと考えているのは、弁護士倫理の問題ではありません。地方の顧客を東京の法律事務所に奪われないようにしたいためです。
 極論を言えば、ほとんどの弁護士が東京で仕事をしたいんですね。一般的にはあまり知られていませんが、日本の弁護士の半数近くが東京で仕事をしているんです。
 それなのに、都落ちしているのは競争が激しい東京を避けたためです。
 若いころは東京で仕事をしていたのに、独立開業する際には地方の弁護士会に登録替えする弁護士も少なくありません。

 だから、東京の法律事務所が地方の市場に参入することは許せないわけですね。
 でも、弁護士は自分が所属する弁護士会の監督下にあります。したがって、地方の弁護士会が東京の弁護士を取り締まることはできません。
 なので、東京の弁護士会に取り締まってほしいということなんです。
 でも、そういう理由だとすると、独占禁止法違反になる可能性が濃厚です。東京の弁護士と地方の弁護士の競争を減殺する規制ですからね。

2 テレビCMと日弁連選挙

 このような「東京の法律事務所VS地方の弁護士」という対立構造を見ると、先日の日弁連選挙を思い出してしまうんです。
 日経新聞等でも報道されていましたが、先日の日弁連選挙では、宇都宮先生が地方の42弁護士会からの支持を得ました。
 総得票数では山本先生が約1000票ほど上回ったのですが、全国で52個ある弁護士会のうち、山本先生が支持を得たのは、わずかに9弁護士会にとどまりました。
 宇都宮先生に対する地方の支持は凄いものです。

 しかも、宇都宮先生は、日ごろ、広告活動をしている法律事務所には批判的です。さぞかし、テレビCMをしている法律事務所に対してもあまりよい感情を抱いていないことだと思います。
 もし、宇都宮先生が日弁連の会長になったら、テレビCM等の広告規制をしてくれるのではないか。そんな期待が地方の弁護士たちにあってもおかしくありません。

 

 そういえば、テレビCMをしている東京の法律事務所の多くは、債務整理の広告でしたね。
 宇都宮先生も債務整理の分野で著名な先生です。東京の法律事務所のテレビCMを規制することは、宇都宮先生にもメリットがあるはず。なぜなら、テレビCMをしている法律事務所は、基本的に宇都宮先生のライバルなはずですから。
 その意味では地方の弁護士と利害が一致しています。ちょっときな臭いですよね。

 今後、弁護士のテレビCMに対して、日弁連がどう動くか。興味深く見ています。