1 「削減」言う前に全体像を

 2010年3月12日付けの毎日新聞朝刊の社説で、日弁連の会長選挙が取り上げてありました。それだけマスコミも関心があるのだと思います。
 本来であれば、宇都宮弁護士が現執行部路線を継承する山本弁護士を破ったわけですから、法曹界においても新しい時代の幕開けを予感させ、マスコミからは歓迎ムードで報じられてもよさそうです。

 しかしながら、毎日新聞社説のトーンは、必ずしも歓迎ムードのようには読めませんでした。
 見出しは、

「削減」言う前に全体像を

 とあり、宇都宮弁護士のビジョンの問題点を短い言葉で鋭く突いています。
 マスコミも含め、これまで弁護士会の執行部が執ってきた改革路線は、世間が歓迎していたはず。というか、そもそも、世間のニーズから出発したはずです。司法改革は、裁判員制度の導入だけではなく、法曹人口の大幅な増加を実現して国民のニーズに応えようとしたものでした。

 ところが、弁護士界で盛り上がっているのは、如何にしてこの流れを止めて弁護士競争時代に歯止めをかけるかです。司法改革のメニューのうち、弁護士にとってもっとも歓迎されないのは、司法試験合格者の増員です。競争相手が急増することを歓迎する業界なんて普通ありませんからね。
 宇都宮弁護士の当選には、このような背景があることを忘れてはいけません。

2 毎日新聞社説の論調

 毎日新聞も宇都宮弁護士の当選に対して厳しい見方をしているようです。
 宇都宮弁護士が打ち出した「司法試験合格者の削減」について、同紙の社説は次のように論じています。

 「宇都宮氏は、削減の理由について、新規弁護士の就職難や、弁護士業務の需要が増えていないことを挙げる。だが、それだけでは説得力に乏しい」
 「企業・官庁も含への進出も含め、多様な領域に活路を見いだす努力は十分だったろうか」
 「まず削減ありきではなく、足元を洗い直してほしい。その上で大幅減が必要ならば、数字の根拠を明らかにし、今後の弁護士界のあり方を含めた全体像を示すべきだ」
 「でなければ、業界が既得権益を守ろうとしていると受け取られてしまう」

 要するに、毎日新聞も日弁連会長選挙で宇都宮弁護士が当選できた背景をよく理解しているわけです。
 でも、この社説の指摘が地方の弁護士の心に響くかどうか…。まさに、ベクトルは弁護士の既得権益を守る方向に向いていると思います。