1.はじめに

弁護士の平久です。今回は、破産手続において、期限付債務及び停止条件付債務と相殺が問題となった判例(最高裁平成17年1月17日第二小法廷判決民集59巻1号1頁)についてご紹介致します。

2.事案の概要

 A(破産者)は、Y保険会社との間で複数の保険契約を締結した。その後、Aに対して破産手続開始決定がなされた。そこで、Aの破産管財人Xは、Y保険会社に対して、破産手続開始後に満期が到来した満期返戻金及び破産手続開始後の解約により停止条件が成就した解約返戻金の支払いを求めて提訴した。これに対して、Yは、Aに対して有していた債権を自働債権として相殺を主張した。

3.問題点

 破産法67条2項によれば、破産債権者の負担する債務が期限付若しくは条件付であるときでも相殺をすることができます。一方、破産法71条1項1号によれば、破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したときには、破産債権者は相殺をすることができません。そこで、本件のような場合には、破産手続開始後に期限が到来し、または、条件が成就することから破産法71条1項1号に抵触し、相殺をすることができないのではないかが問題となったのです。

4.判決の要旨

 破産債権者は、その債務が破産手続開始決定の時において期限付である場合には、特段の事情のない限り、期限の利益を放棄したときだけでなく、破産手続開始決定後にその期限が到来したときにも、破産法67条2項後段の規定により、その債務に対応する債権を受働債権とし、破産債権を自働債権として相殺をすることができる。

 また、その債務が破産手続開始決定の時において停止条件付である場合には、停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく、破産手続開始決定後に停止条件が成就したときにも、同様に相殺をすることができる。

 本件では、各保険契約は、破産手続開始決定後に期限が到来し、または停止条件が成就したものであり、また、特段の事情はなく、したがって、Yは、上記返戻金債権を受働債権として相殺をすることができる、としました。

5.本判決を踏まえて

 本判決によれば、破産債権者の負担する債務が期限付または停止条件付である場合に、期限の利益または条件不成就の利益を放棄しなくても、特段の事情のない限り、期限到来後または条件成就後に相殺をすることができます。よって、このような場合破産債権者としては、とりあえず破産債権の届出をなし、受働債権について期限が到来した後、若しくは停止条件が成就した後に相殺すれば良いでしょう。

 また、本判決中にある相殺権の行使を妨げる「特段の事情」とは、相殺への合理的期待が認められないような場合、すなわち相殺権の行使が相殺権の濫用に当たる場合などのことを意味しますが、そのような事情の有無については、事案ごとの個別の検討を要するものであり、お客様からの事情聴取の上でないと判断しかねる場合もございますので、弁護士にご相談下さい。

以上

弁護士 平久 真