今日は、子会社が破産してしまった場合、親会社がその子会社に対する債権を回収する場合について、お話します。

 一般的には、債務者である会社が破産する場合、債権者である会社は、その破産会社に対する債権を破産債権として届け出、破産手続の中で債権の回収を図ることとなります。債権者が複数いる場合、債権額に比例して平等に配当を受けます(債権者平等原則)。

 では、親会社が破産する子会社に対し債権を回収する場合も、債権者平等原則を貫くべきでしょうか。

 親会社は子会社の動向を把握し、子会社が破産したりしないように気を付けているべきで、このような責任を果たしていない親会社が、ほかの債権者と平等に債権を回収するのは虫が良すぎ、遠慮すべきではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。

 この点について争った次のような裁判例があります。

東京地裁平成3年12月16日判決

[事案]

 YはXの100%子会社です。XはYに対し、債権を有していました。その後、Yが破産手続開始決定を受けたため、XはYに対する債権を破産債権として債権届出をしました。
X以外の債権者も、Yに対する債権届出をしました。
 そして、Y及びX以外の債権者は、「親会社の子会社に対する債権は、そのほかの債権に劣後する。」と主張して異議を申し立てました。すなわち、債権者平等原則を貫くべきではなく、そのほかの債権が回収されなければ、XはYに対する債権を回収することはできない旨主張したのです。

 これについて、この判決は、次のように述べ、「XのYに対する債権が劣後的債権である」との異議を認めず、債権者平等原則を貫きました。

① 制定法の観点

 Yらの異議を根拠づける明文がない。

② 破産と会社更生との比較の観点

 東京高決昭和40年2月11日及び福岡高決昭和56年12月21日は、会社更生手続において、破産する子会社に対して親会社が有する債権について、劣後的取扱いをすることを認めた。しかし、これは、会社更生法には差別的取扱いを許容する明文が存在するからであって、本件のような破産事件とは異なる。

③ 倒産法上の一般原則について

 Yらは、倒産法上の一般原則(公平性など)を主張したが、その要件及び効果が明確になっていないので、これを採用することはできない。

 なお、破産事件において、この判例と異なり、信義則に基づき、親会社の債権を劣後的に取扱った裁判例もあります(広島地判福山支部平成10年3月6日)。しかしながら、この裁判例は、①債権者の破産会社に対する強い支配関係、②破産に至った事情に債権者が大きく寄与していることなどの特徴的な事実関係があったためにこのような考え方をとったにすぎないので、この考え方が一般的なものとはいえないと考えられます。

 親会社がほかの債権者と平等に配当を受けられるというのは、一見、虫のよい話のようですが、現在の判例実務上は、そのような取扱になっています。

以上