こんにちは。
 これまで破産手続において双務契約がどのように処理されるかお話してきました。今日は、双務契約の中の賃貸借契約において賃借人が破産した場合について検討してみたいと思います。

 賃貸借契約は、賃貸人の賃借人に目的物を使用収益させる義務と賃借人の賃料支払や目的物返還の義務が向い合っており、賃貸借契約中にどちらかが破産すれば、賃貸借契約の残りの期間について両者の義務が残っているので、双方未履行の双務契約となります。したがって、破産法53条の適用があり、賃借人が破産した場合、賃借人の破産管財人は、賃貸借契約の債務の履行を選択するかまたは解除権を行使して契約を終了させるかを選択することになります。

①破産管財人によって履行が選択された場合

・破産手続開始決定前に発生していた未払分の賃料債権
 →破産債権=破産財団から配当

・破産手続開始決定後に発生した賃料債権
 →財団債権(破産法148Ⅰ⑦)=随時弁済

②解除が選択された場合

・賃貸人の原状回復請求権(※1)
 →財団債権(破産法54Ⅱ)=随時弁済

・解除による損害賠償請求権→破産債権(54Ⅰ)  =財団から配当

※1  契約が解除されると賃貸借契約は終了します。この場合、賃借人は目的物を返還する義務を負い、その際に目的物を借りたときの状態に戻す原状回復義務を負います(民法616、597、598)。

 では、たとえば、賃貸人と賃借人の間で違約金条項を合意し、賃借人が賃貸借契約を期間内に解約したときは敷金等は解約による違約金に充当され返還を要しないこととして、損害賠償金を回収することはできないでしょうか。

 当事者間で締結された契約解除に関する特約が破産管財人に対しても主張できるか否かについて、名古屋高裁平成12年4月27日判決は、限定的ではありますが、そのような特約の効力を認めました。上記高裁判決は以下のような事案です。

①A(賃借人)→Y(賃貸人)
  建設協力金・敷金交付

②A(賃借人)―Y(賃貸人)
  賃貸借契約締結

③A(賃借人)破産・管財人X選任

④X(管財人)→Y(賃貸人)
  賃貸借契約解除、明渡し

⑤X(管財人)→Y(賃貸人)建設協力金・敷金返還請求

⑥Y(賃貸人):Aが賃貸借契約を期間内解約したときは、敷金及び建設協力金は違約金に充当され返還しない旨の違約金特約がある

 上記高裁判決は、破産管財人による解除権行使の場合にも違約金特約が適用されるとしたうえで、これを違約金請求権と敷金等支払債務との相殺契約であると認定し、相殺の範囲を当事者の合理的な期待の範囲に制限しました。

 しかし、上記高裁判決は、現破産法53条の特則として定められていた民法旧621条(賃借人の破産管財人だけでなく、賃貸人にも解約権を認めていました。)の解除権の行使であることを前提として損害賠償の予定を認めたものであって、民法旧621条が削除された現在、破産法上定められた破産管財人の特別の権能である未履行双務契約の解除権(破産法53条)の行使の場合にも適用されるかは争いがあります。

 この点に関し、大阪地裁倒産部では、破産法53条による解除の場合には、当事者間の契約に基づく違約金条項の適用はないとされています(「はい6民です」月刊大阪弁護士会2007年4月号61頁)。そして、破産法54条1項による損害賠償請求権は現に被った損害の範囲(賃料相当額)で成立するにすぎず、それを超える損害賠償請求権は成立しないと解釈しています。

以 上