1 時代は変わった

 最近、やたらと法律事務所のテレビCMが増えたと思いませんか。
 そのほとんどが債務整理に関するCMですが、今までは法律事務所がテレビCMをするなんて考えられませんでしたよね。

 ちなみに、もう約6年前になりますが、私がロサンゼルスに住んでいたころ、弁護士のテレビCMをよく見ました。当時、日本でテレビCMをしていた法律事務所は皆無だと思いますが、アメリカでは珍しいことではありませんでした。
 今後、日本で法律事務所のテレビCMが視聴者にどのように評価されるのかは分かりませんが、少なくともアメリカでは評判はあまりよくありませんでした。どちらかというと、食えない弁護士、事件漁りをしている弁護士というイメージがありました。

 そもそも、法律事務所のテレビCMが始まったことについては背景があります。
 第1に、これまで弁護士の広告活動が弁護士法で禁止されていましたが、数年前に広告活動が解禁されたことが挙げられます。
 第2に、従来は、大手法律事務所は企業法務専門事務所、零細法律事務所は個人顧客向け法律事務所という具合に定着していました。ところが、広告解禁は、個人顧客向け法律事務所を零細法律事務所から大規模法律事務所に発展させる契機になったことです。すなわち、事件1件自体は小口だが、広告力によって大量受任してスケール・メリットを利かした経営戦略を取れるようになったわけです。

2 テレビCMは広告力を発揮するか

 広告理論を勉強したことがある人には釈迦に説法ですが、念のため解説しておきます。
 マス広告戦略を検討する場合、通常、リーチとフリークエンシーに分けて考えます。
 リーチとは、その広告を見る人がどのくらいいるかという問題。フリークエンシーとは、同じ人がその広告をどのくらいの頻度で(何回くらい)目にするかという問題です。
 テレビCMは、基本的にリーチの広い広告です。しかし、同じ人が何度も目にするようにするためには、頻繁にテレビCMを流す必要がありますが、それには莫大な費用がかかります。つまり、リーチだけではなく、十分なフリークエンシーを確保しようとすると、かなりの予算が必要です。
 新聞や雑誌も、テレビほどではありませんが、リーチを意識した広告手法です。

 しかし、こうしたマス広告には、共通した短所があります。
 それは、マスそのものにあります。なぜ、マス広告の費用が高額なのかというと多くの人たちの目に留まるからです。ところが、多くの人たちに広告を見てもらうには、興味のない人たちにも見てもらわなければなりません。
 そうすると、広告を依頼している広告主は、潜在顧客にもなりえない多くの人たちに広告を見てもらうために大金を費やすことを意味するのです。これはお金の使い方としてはあまりにも不経済ですよね。

3 インターネット広告の優位性

 このように、テレビ・新聞・雑誌などの従来のマス広告には、不効率・不経済な点が難点でした。
 ところが、インターネットの登場で状況は一変します。

 例えば、「弁護士」という検索キーワードをクリックすれば、法律事務所のHPがずらーっと出てきます。これらはほとんどが広告です。
 しかし、「弁護士」という検索キーワードをクリックする人は、何らかの事情で弁護士や法律事務所に関する情報を探している人です。これらの人々は、少なくともテレビを見ている視聴者よりも、はるかに高い確率で顧客になりうる人たちです。  しかも、インターネットですから、大量の人たちに訴求することができます。リーチの問題は完璧です。
 また、インターネット広告では、フリークエンシーの問題も解決します。なぜならば、そもそも弁護士を探している人が弁護士の広告を見に訪れてくるわけですから、1回しか見ていない人でも顧客になりえるからです。マス広告においてフリークエンシーが重要なのは、興味のない人たちが対象になっているからです。興味がない人たちなので、執拗に繰り返し広告を見せてすりこむ必要があるわけです。
インターネット広告では、必ずしもその必要はありません。
 さらに、テレビや新聞のような従来型マス広告よりも費用はずっと低廉です。興味のない人が最初から除かれているため、テレビ等よりもリーチが狭いからです。

4 テレビCMをどのように位置づけるべきか

 以上のとおり、これからの広告戦略としては、インターネット広告のほうが圧倒的優勢を持っています。

 もっとも、テレビのようなマス広告の効用を完全に否定するつもりはありません。
 問題は、広告の目的です。広告の目的は、大きく分けて販売促進とブランド構築に分けられると思います。
 販売促進目的は、文字通り、集客のために広告を使う場合です。
 これに対し、ブランド構築は、自社の知名度とイメージを高めるために広告を利用する場合です。
 私は、前者についてはインターネット広告が最も優れているが、後者については、今のところテレビCMに優位性があるのではないかと思います。
 ただし、条件があります。長期継続できればの話です。数回テレビCMを流しても意味がありません。短期間テレビCMで流しても、人々の記憶に残りません。ブランド構築のためには、かなりの長期、CMを流し続ける必要があります。どのくらいの期間かは明確には言えませんが、少なくとも世間に忘れられない程度にです。
 そして、これには莫大な費用がかかります。

 ところが、最近の法律事務所のテレビCMのほとんどが、債務整理事案に関するものです。そうすると、ブランド構築が目的ではなく、眠っている過払い案件の掘り起こし(すなわち、販売促進)が目的になっているように思えてなりません。
 そうすると、これらのテレビCMは長くは続きませんね。
 私がこのブログで予言しておきましょう。

 今流れている法律事務所のテレビCMは、1年もたずになくなります。